紅葉の湖に霞立つ

　健さん、あのころはスキーに出かけるのが、都会の若者のファッションでしたね。歳をとると幼時の記

憶が懐かしくなります。子どものころ雪国でくらし、道踏み・雪下ろしなどきついことが多かったのに、

今では雪をよろこぶ気持ちの方が強くなりました。子ども・若者は、はっきりした刺激に反応するのに忙

しいから、舌の上を転がすように風景を味わう気持ちにはなりにくのでしょう。


　関東の平野部はいま紅葉が華やかになのでしょうか。こちらの森では、２，３週間前に鮮やかな色彩を

まとっていた木々が、もうほとんど裸です。枯れ葉を踏んで寒風の庭に立っていると、霞む湖岸を秋色が

飾っていた風景は遠い記憶のようにリアリティーがありません。それでも写真を眺めれば、あの陶然とし

た気分がいくらか甦ります。