夜明け 脱炭素化のコスト計算

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 脱炭素化があまり進まない理由のひとつはコストの見通しだろう。例えば太陽電池。いまは標準的な家

庭用設備で200万円かかる。余った電力と足りない電力を電力会社と売買して最終的に払う料金を、全

量を買電する料金と比較すると、200万円を回収するのに10年はかかるらしい。助成する自治

もあるので、自己負担が2割減るとして、うまくいけば9年目からはユーザーが得をする。だがそれ以前

に耐久年数がすぎたり、修繕が必要になったりした場合は、トータルで損になるリスクが大きい。200

万円を8年間投信や国債で運用する利得・リスクと比べて、太陽電池設置をためらいたくなる気持ちは

分かる。損得の確率をごまかす宣伝をするのでなければ、いまのところ、環境問題に貢献したいというユ

ーザーの善意に頼って普及を図るしかない。

 いろんな種類の発電コストを比較した数字を見ることがある。たいてい、火力・原子力などの従来型発

電のほうが、風力・太陽光などの新しい発電より安いとされている。家計の見通しを考えたり、1kW/時

あたりの原価計算を見せられたりして、「脱炭素化が望ましいのは分かるけど、コストのことがあるから

難しい」、という思い込みが定着する。

 「思い込み」という表現をしたのは、家計負担や原価の計算が、二つの方向で、炭素ストック消費の現

状を前提にしているのではないか、という疑いをわたしがもっているからだ。一つは、従来型家屋に太陽

電池を増設するような部分的改善でコストを計算している、ということ。車や工場や住宅や発電・送電シ

ステムなどの設計を全面的に見直せば、経済コストは削減されるというのが、ロビンスの主張だと思う。

部分的改善が全体的革新より高くつく例は多い。この点にはいまはこれ以上触れない。もうひとつは、従

来型発電の社会的コストが計算に入っていないのではないかという点。

 火力発電に使われる石炭・石油・天然ガスの輸入・備蓄には、助成金・税の優遇・設備を作る地域の住

民対策などに、公金が支出されている。原発では、高濃度放射性廃棄物処理があるから、これらの社会的

コストはずっと高額になる。ユーザーは電力使用料と税で、二重に発電コストを負担している。太陽光自

家発電で発電所から買う電力が10分の1になったユーザーも、従来型発電を維持する社会的コストは支

払い続けることになる。公的負担を電力料金に加算する、あるいは買電が10分の1になったら発電の社

会的コスト分の税を9割免除したり、その分を太陽電池の助成に回したりする、などを前提にして、計算

しなおした数字が見たいと思う。

 太陽電池を推進する広報活動や助成金をアクセルとすれば、従来型発電のための公金支出はブレーキで

ある。アクセルとブレーキを同時に踏んだのでは、車はうまく進まないばかりか、摩擦で部品がダメにな

る。環境問題には貢献したいが、コストがあるから思うようにいかないという、わたしたちのもやもやし

た思いは、アクセルとブレーキが同時に踏まれている焦げた匂いかもしれない。アクセルは宣伝される

が、ブレーキには隠されるから、「思い込み」が強くなる。そして、広がる「思い込み」から利益をくみ

出す人々の集団がある。次回はこの点を考えたい。