正社員化は解決にならない

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第一部
 雪景色の美しさを認めてくれる反応が多くてうれしい。二階は使っていませんので、埼玉の人など、希

望者には宿泊に提供します。飛行機代が溜まったら、どの季節でも遊びに来て、オホーツク地方の魅力を

体感してください。
 
 とうとう教育基本法の改悪が決まりました。深い絶望を感じています。なぜ日本では経済の趨勢に逆行

する、こういう祖先帰りが起きるのでしょう。政・官・財界指導者に、長期的で広い視野から見えてくる

社会ビジョンが、欠けているとしか思えません。

 『フィンランド・・・』のリライトを進めるうちに、また少し見えてきたことがあります。第二部の補

遺として、載せます。あいかわらず読みにくいとは思いますが、ファイトをもって挑んでくれる人がいる

とうれしいな。


第二部      非正規雇用の正社員化は長期的には解決にならない

 05年9月28日の世界経済フォーラムの発表によれば、世界117カ国・地域のなかで、中長期的な経済競争

力世界第1位は、3年連続でフィンランドであった。ちなみに2位はアメリカ、3位と4位はそれぞれスウェ

ーデンとデンマーク。日本は12位である。(朝日新聞 05・ 9・29)

 01年からの5年間では、02年にアメリカとフィンランドの順位が逆転した以外、1位と2位はいつも同

じだった。日本は04年の9位が最高で、ほかの年は10位以内に入っていない。上位二カ国以外でベスト・

テン常連国は、スウェーデンデンマークノルウェーの北欧三国に、シンガポールと台湾、それにスイ

スである。( 『フィンランドに学ぶ教育と学力』明石書店 庄井良信・中嶋博編著 05年刊)

 けた外れの経済規模を誇るアメリカの主導権のもとで、グローバル化が進み、世界的に新自由主義思想

の信奉者が増えた。日本は、自民党民主党も「小さな政府」の立場だ。アメリカとアジアのベスト・テ

ン常連二国は、社会保障より間自由競争を優先している。だが、フィンランドを含む北欧諸国は高度社会

保障国家だ。その国々も経済的に好調なのである。アメリカのような大国は自由競争至上の経済でも、世

界中から利潤と投資を集められれば、中間層にまである程度富を分配できる。上・中層の需要だけでも規

模が大きいから、国内外貧困層の不満を押さえ込んで、経済的に繁栄するかもしれない。だが軍事・政

治・治安のコストはかなりの大きさになる。


 体に必要なカロリーと栄養素のある食べ物、寒さを防ぐ清潔な衣料、寒気や雨露をしのげる住宅、それ

に基礎的な医療と教育など、その社会でふつうにくらしていくのに欠かせない消費を、必需消費(必需需

要)と呼ぼう。それ以外の、好みや嗜好によって変わる消費が、選択消費(選択需要)だ。経済先進国で

は、こぼれ落ちる少数者の割合は社会保障の粗密でちがうが、ほとんどの住民は必需消費を満たすことが

できる。いまでは先進諸国はどこでも、必需需要より選択需要に応える経済活動のほうが比重の大きい社

会になっている。

 必需消費には、規格品をできるだけ安く大量に供給するシステムが適している。産業化段階の社会は、

増え続ける人口の必需消費を満たすために、工場生産を拡大する。それに伴い、機械、原料・燃料などの

産業や、交通・通信・金融などのインフラや、宣伝・経営・管理などの事務部門が発達し、全体的な経済

規模が大きくなる。この段階でも自由経済の下では、より大きな利潤を求める資本の移動を背景に、価格

や品質や宣伝の競争があり、設備・技術の更新、規模のメリットの追及、経営の合理化などが進む。だ

が、必需消費では食糧、衣料、住宅、基礎的な社会サービスなどの、それぞれの分野の需要が固定してい

る。より大きな住宅のために衣料を減らすような、分野を越える消費の移動は限度がある。したがって企

業は、内部的な革新はしても、方向を大きく転換する必要はあまりない。そしてかつては日本でも、必需

消費の市場は拡大を続けていた。だから、市場競争で優位を確立した企業は、今後の発展を予定して、年

功序列・終身雇用の正社員を大量に抱え込むことができた。

 しかしいまや先進国経済の軸足は選択消費にある。消費対象の選択基準は、物自体の有用性より、付

加される情報やサービスの価値になる。産業経済から情報・サービス経済への移行である。好みや嗜好

は、同じものでは次第に満足度が低下する。消費者はより高度なものや、いままでとちがうものを求める

ようになる。選択需要に応える供給者は、いつも高度化と差異化の圧力にさらされている。選択消費は分

野を越えて移動する。呑む回数を減らして子どもにおもちゃを買って帰ることも、大きな家を建てる代わ

りに田舎に家庭菜園をもつことも、高級車への買い替えをあきらめて外国旅行を楽しむことも、化粧品代

を節約して好きな歌手のCDを集めることもできる。安い規格品の長期大量生産ではなく、分野、品種、グ

レード、価格帯などの多様化と、需要変動に応じるすばやい転換で、対応しなければならない。

 好みや嗜好は、はやりすたりの影響を受けながら、高度化・多様化し移り変わる。同じ方向で内部の設

備・技術・経営を効率化するだけではすまない。そのうえ経済競争は国境を越えてグローバル化してい

る。世界を股にかけて移動する資本によって、異業種間でも同業種間間でも、世界的な効率化競争がいっ

そう激しくなる。企業が短期間に興ったり滅びたりするだけでなく、産業分野や業種・業態も変わる。企

業・業種・分野の盛衰にすばやく対応できないと、経済競争で優位に立てない。だから雇用調整の自由度

が経済競争力の重要な要素になる。年功序列・終身雇用・社内福祉の正社員制度は、最も自由度が小さい

から解体に向かう。

 フィンランドをはじめ、北欧諸国の経済競争力が強くなった原因のひとつが、労働市場流動性であ

る。技能、資格、キャリアーが同じなら、どこで働いても似たような待遇を期待できる。正社員でも、契

約・派遣・請負・パートタイマーでも、仕事が同じなら時間当たりの賃金はほぼ一律である。企業ではな

く国が、高齢退職後、病気、出産・育児、失業などに対する、保障を設計している。正規雇用と非正規雇

用の差にはあまり意味がない。無償の初等・中等教育があまねくいきわたり、そこでは情報・サービス業

の職業能力涵養が特に重視されている。高等教育を望む人には何歳からでも機会が与えられ、修学中は公

的支援を受けられる。再就職のための準備活動や技能訓練を支援する、公的支出(失業対策費)のGDPに対

する割合は、例えばデンマークは日本の6倍であり、北欧諸国は軒並みに2倍を上回る(『データブック2

006』二宮書店)。

 福利厚生、職業教育・再教育、再就職準備などを社会が担う制度が整備されているから、企業は余分な

負担をせず、必要な種類の労働力を必要なだけ雇用し、不要になれば解雇できる。フィンランドの失業率

は日本の2倍を上回る。それだけ企業の雇用調整の自由度が高いということであり、それだけ経済競争力

強化に有利だということでもある。公的な支援ネットが密なので、ある程度の失業率の増加でも、社会的

動揺はそんなに大きくならない。

 日本は福利厚生、職業教育、被解雇者支援などにも企業の負担が残っている。序列意識に妨げられて、

同一労働同一賃金が普及しない。企業首脳陣は、専門技術者層は契約に、現場部門は派遣や請負に比重を

移しながら、幹部候補生だけは子飼いの正社員にし、優遇制度を残そうとする。彼らには企業を私物視

し、身の回りを序列秩序で固めたがる体質があるからだ。ほんとうは経営もまた専門技能のひとつであ

る。経営陣もまた、門閥、学閥、縁故、情などと無関係に、能力だけで流動するようにならないと、経営

の効率化は徹底しない。彼らは正社員と非正社員格差是正に消極的で、流動化を支える社会保障の強化

にはむしろ反対に回る。公的教育を、情報・サービス化に逆行する、序列意識強化の方向で改革したが

る。上層には情が絡む序列秩序を温存したままで、中・下層にだけ、正規雇用から非正規雇用への非情な

転換を進めようとする。社会的格差が拡大し、中・下層の平均的地位が低下し、社会が不安定になる。生

存線ぎりぎりの層が増えるから、失業率のわずかな増加にも社会が敏感に反応する。(おわり)