フィンランド・モデルは好きになれますか 33

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 第一部
 森林が消えた跡に広がる野付半島の原野は、自然の花園である。いまは秋の花々が咲き誇っている。赤はハマナス。白はキタノコギリソウ、オカトラノオ、ススキの仲間など。青や紫はツリカネニンジンかエゾリンドウ。黄色はアキノキリンソウ、コウゾリナ、ハチジョウナ、ハンゴンソウなど。

 第二部
           フィンランド・モデルは好きになれますか 33

 5 課題

 (1) 経済の情報化・グローバル化

〔学校ぎらいと社会階層〕
 学力世界一の評判が高くなっても、フィンランドの教育関係者は自分たちの悩みを抱え、その解決策を一生懸命探している。意欲のある生徒をよりよく教育する方法だけでなく、学校を好きになれない子どもの存在にも議論が集まる。
 PISAは学力調査の対象者に数学への興味・関心を質問している。それによるとこの国で、数学が楽しい、学ぶ内容に興味がある、という回答はOECDの平均を下回っている。これは日本も同じである。ちがうのは、欠席・遅刻・授業サボリが多いことだ。例えば、03年の調査で最近二週間遅刻していないという回答は、OECD平均が63.5%、フィンランドが55.3%、日本は83.3%である。(А渡邊あや)
 同国には、「教師中心主義が強い」「友情を中心としたインフォーマルな関係のための時間・空間が少ない」「生徒たちの自治・自律が弱い」、などと指摘する調査がある。ある研究者は、成績のすぐれた学生が教師になりたがる結果として、教師が一定の社会階層の集団になり、保守的で、生活上の困難を抱えた子どもや移民の子どもへの対処など、新しい問題への対応力を失いがちだ、という意見を語っている。(А田中孝彦)
 また、今でもヨーロッパの人々は自分がブルーカラーかホワイトカラーかを明確に意識していて、フィンランドでも大学生の多くはホワイトカラーの家庭に属する、という(А∪邵螳貮А法社会保障のレベルが高く教育の公費負担が徹底しているこの国では、学費や在学中の生活費のめどが立たないとか、早く稼いで家族を援けなければならないとかの理由で、進学をあきらめることはまず考えられない。進学しない理由は、したくないか、する必要がないと思っているか、成績や努力の点で無理だとあきらめているかの、どれかだろう。この国の教育の階層格差は、家庭の経済力ではなく、学習者本人の意欲のちがいを反映している。
 前に書いたように、日本ほどではないが、この国でも所得格差が拡大し、それが問題視されている。勤労所得の上層と下層の差は開いていない。事業からの配当や役員報酬、あるいは投資の利子でより豊かになる層がある。その一方で、所得を主に社会保障給付に頼る層は、資格制限が厳しくなり給付額が抑制されているため、より貧しくなる。資産所得など、非勤労所得が国民総所得に占める割合は増加している。
 情報・サービス化が進み経済がグローバル化する。そういう世界でより多くの利潤を上げる企業を育成・誘致したい。企業所得、利子・配当、役員報酬への課税を緩和しなければならない。グローバルな競争で新事業開拓と経営効率化を強いられた企業は、単純労働部門の人員・賃金抑制や非正規雇用拡大などで、頭脳労働部門の人件費増加を相殺しようとする。経済構造転換や経営効率化の推進で失業率が高止まりして、社会保障支出に増加圧力がかかる。勤労所得の停滞で税や公的保険料など、社会保障の原資に減少圧力がかかる。この国は、社会福祉や教育の公費保障で、国の決めた最低基準を達成するのに四苦八苦する自治体が増えているという。
 社会保障は、経済構造転換や経営効率化が生み出す緊張を緩和するから、経済革新のインフラ(社会基盤)になる。その水準が原資不足から大きく低下する前に、新しい経済構造を安定させたい。時間との競争かもしれない。競争の鍵を握るのが教育である。どれだけ早く国民を新しい経済に適応させることができるか。情報・サービス社会でうまく稼ぎ、社会保障の負担にならない人材には、一定以上の知能と創造力が必要である。学校ぎらいの子どもに懸念が高まる。非効率的な古い産業に安住しがちな人々から、新しい挑戦への意欲を引き出す努力は十分なのか。教師や教育行政の側に、古い社会構造にとらわれているところはないのか。教師や行政に向けられるまなざしは厳しくなっている。
 (この項続く)