枯れ草の陰に輝く

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 ゆめラジさん、何気ない片隅の光景を気に入ってくれてうれしい。華やかな花の盛りには群れ集るの

に、見慣れたつもりの雪景色に注目する人はあまりいません。何が美しく何を賞賛すべきなのか、知らな

いうちに外にある基準に流されて、自分で探し自分で見つける労を省くようになっているのでしょうか。

満開の桜は年々相似ているのに、枯枝に置かれた雪の造形は多様で刻々変化しています。能取岬でも、観

光客は流氷を愛で、モニュメントの前で写真に納まって満足します。わたしが枯れ草に埋もれるようにし

て輝いている福寿草を撮っていても、立ち止まって足元を見ようとする人は皆無でした。


 「日経サイエンス」5月号の特集が「革命前夜の物理学」と銘打たれていました。まもなくヨーロッパ

のCERNでLHC(ラージ・ハドロン・コライダー)の稼動がはじまります。ハドロンは陽子、中性子

中間子といった、クォークグルーオンからなる粒子です。LHCは陽子を光速の99.999999

1%まで加速し、テラ電子ボルト規模のエネルギーをもたせて衝突させます。万物に質量を与えるヒッグ

ス粒子の捕捉をはじめ、暗黒物質やダーク・エネルギーの正体を理解し、余剰次元を垣間見ることになる

発見など、さまざまな期待をもって、世界中から5000人を超える科学者が集まってきています。強い

力、弱電磁気力、重力に次ぐ未知の力が見つかるかもしれません。小さなビッグバンのような実験ですか

ら、宇宙のはじまりについての理論が更新されるでしょう。

 4半世紀以上素粒子物理学の主役であった標準理論には、相対性理論量子力学の統合ができないと

か、ある種の素粒子の遠距離相関の理由を説明できないとか、ニュートリノには質量がないことになって

いるとか、その限界が強く感じられるようになっていました。LHCとその後に計画されているILCに

よって、究極理論に向かって大きく前進できそうだというのです。10年後には物理学の基礎理論が一変

しているだろうと、予測されています。

 わたしたちのくらしにとってそれが何になるのか、と言う人もいるでしょう。相対性理論量子力学

もはじめはそういう反応がありました。しかし両方とも、いま実用化されているさまざまな機器を設計・

改良する上で、欠かせない理論になっています。それに、実用性以前に、わたしたちの身体を構成する物

質とエネルギー、それを容れる時空構造の究極的説明が現れたら、人が生きることにまつわるわたしたち

の意識が大きく変わるでしょう。哲学の革命になると思います。10年後にどんな理論が構築されている

のか、それを思うとわくわくします。そのときわたしが生きているか、生きていても理解する知能が残っ

ているか、それはまた別な問題ですけど。