美幌川の雪景色。温暖化を考える。

 第二部
地球温暖化 

2002年から、日本が誇るスーパー・コンピュータ(地球シミュレータ)が、100年後の地球環境のシミュレーションを始めている。NHKの番組、『気候大異変』とサイエンス・ゼロで、その結果が報道された。シミュレーションは、地球全体を20km間隔の一億一千の格子に分けて気温・風・海流を入力し、二酸化炭素濃度を指定して、2100年の気候を計算した。このスパコンは、04年秋の、前例のないブラジル沖での大型熱帯低気圧の発生を、一年前に予測していたようだ。コンピュータの精度が上がって、気候シミュレーションに信頼性が増している。二酸化炭素濃度は産業革命まで280 ppmで安定していた。現在は370 ppm。これによる気温上昇は0.6度。2100年の濃度は、このまま上昇が続いたときの970 ppmから排出が理想的に抑制されたときの540ppm までの間、と推定される。シミュレーションは中間の700 ppmでおこなわれた。京都議定書の削減目標より厳しい数字である。以下番組で語られていたことのいくつかをまとめてみる。

〔長期的な見通し〕
2070年には、北極の氷がすべて溶けて海水面は最大88cm上昇する。水没する沿岸の総面積は日本全土の3倍。
2100年までに気温は2.5度から4.2度上昇。東京は5月から10月までの半年が夏になる。熱波による死者は東京で現在の11倍、ニューヨークは43倍、ロンドンは47倍。マラリアコレラデング熱など熱帯性疫病が北上し、たとえばデング熱では、流行の危険にさらされる人口は今の25億人から52億人(世界人口の50%以上)に拡大する。
海水の表面温度が上昇し、風の流れ、水蒸気の循環、海流が変化する。その影響のひとつは、巨大台風・ハリケーン・サイクロン・高潮・洪水の発生頻度が高くなること。日本にもカトリーナ級の台風が予想され、アメリカなどをもっと大きいものが襲う危険がある。ニューヨークでは対策を考え始めているが、強風で高層ビルが破壊され、高さ9m以上の高潮で地下鉄・地下街が水没し、マンハッタンやウオール街が壊滅状態になり、被害総額は巨大すぎて推計不能だという。日本では豪雨の頻度が九州で70%増加し、西日本を中心に川の氾濫・がけ崩れなどの大きな被害が予想される。東北地方は全体としては乾燥化が進むが、集中豪雨も増える。
もうひとつの影響は、旱魃と砂漠化である。日本でも東北地方では旱魃の危険が増加する。アマゾン川は完全に干上がって、流域の熱帯雨林の3分の2が消滅し、アラビア半島より広い砂漠が現れる。失われる熱帯雨林が固定していた二酸化炭素量は、地球全体の8年分の排出量に当たる。それが大気に戻ればいっそう温暖化が促進されることになる。高温化と乾燥化は穀物生産に打撃を与え、日本では北海道で米の産出量が増えるものの、全体としては10%減。世界的に穀物不足が広がり、飢餓人口は今より5,400万人増える。
環境悪化による難民は2億6千万人に上ると予想され、移住地をめぐってさまざまな紛争が増えるだろう。

今そこにある危機
2100年や2070年になって急に温暖化による災害が始まるわけではない。もう始まっている。今後どんどんその頻度が高くなり、規模が大きくなり、被災する人口が膨大になるということだ。
すでにアラスカや南太平洋のいくつかの国や村は、海水の浸食で危険になった島を捨てて、移住する土地を探しはじめている。
03年のヨーロッパを襲った熱波では、フランスで1万5千人、ヨーロッパ全体では3万人が死んだ。アメリカは人口50万人以上の32都市に熱波警報システムを導入しようとしている。台湾では02年にデング熱が大流行し、5千人以上が感染した。
中国はここ数年、南部では洪水の、北部では旱魃の被害が増えているし、内モンゴルでは砂漠化が進んだ。スペインでは去年旱魃で多くの果樹園や農場が壊滅的な打撃を受け、穀物生産は40%減少した。貯水湖の水位は年々低下し今では20%しかないという。この国ではやがて国土の53%が砂漠化するのではないかと懸念されている。
05年にアメリカはハリケーンカトリーナに襲われて、21万5千軒以上の家屋が倒壊し、死者は1300人余にのぼった。被害総額は8兆7千億円から11兆6千億円の間(同時多発テロ被害額の10倍)と見積もられている。

〔番組から離れて〕
 ここからは私見をまじえて、広く考えてみる。
 「地球に優しく」というような言葉もあるが、地球が人間や生物に優しいわけではない。地球史の過去には今よりずっと高温の時代も、スノーボール・アースと呼ばれ、赤道まで氷結した時代もあった。最大95%と見積もられる生物の大絶滅は何回もあった。たまたまここ一万年ほど「異常に」温和な気候に恵まれていただけである。ヒトはその間に大急ぎで文明を発達させ、63億人にまで増殖し、他の生物に脅威を与えている。今までに多くの生物種が絶滅したようにヒトが滅んでも、地球は何も感じない。
大きな地震なら、世界各地で同時に起きるわけではないから、国際支援も期待できる。温暖化による大災害は長期同時多発だから、互いに援けあう余裕はなくなっていく。ニューヨークに続いて東京もカトリーナ級の大型熱低に襲われるような場合だ。
一期目のブッシュ大統領は表向き温暖化による災害を認めていなかった。だが国防総省が被害を想定し、自国だけの防衛を秘密裏に研究していることが暴露された。一国防衛策は、核戦争では考えられても、温暖化では無意味だ。全世界が協力して二酸化炭素濃度を540ppmに抑えることができれば、被害はかなり小さくなるという。しかし、700ppmでさえ今の情勢ではむずかしい。970ppmになったら、文明が崩壊するのではないか。

〔重い選択!〕
6千5百万年前、小天体の地球への衝突から始まった気候大変動で、恐竜など生物種の約70%が絶滅したという。衝突のエネルギーは、今地球上にあるすべての核爆弾が爆発したときの1万倍と推定されている。それでも、ネズミのように小さな夜行性哺乳類は生き残った。それが恐竜の退場で空いたニッチで進化し、結果としてヒトが誕生した。
アマゾン川流域の砂漠化や、ツンドラの融解によるメタンの気化などによって、温暖化に歯止めがかからなくなれば、気候は暴走し、最悪のシナリオとしては、地球が金星(表面温度は70℃を超える)のような灼熱地獄になる危険もある。70℃では普通のタンパク質は温泉卵のように凝固する。一部のバクテリアを除けば、生物はほとんど生き残れない。
進化生物学者の故S.J.グールドは、生物進化はたくさんの偶然の積み重ねだから、バクテリアから再び始まったとして、知的生命体に至る確率はばかばかしいほど小さい、と書いていた。彼の言うとおりなら、地球が金星化すれば、もう地球に知的生物は現れない。わたしたちは宇宙を、観測者のいないさびしい世界に変えてしまうのだろうか。
逆に、温暖化の危機を乗り越えて文明を存続させることができれば、100年後には核融合によるエネルギー供給が実用化されているかもしれない。2千万年は資源枯渇のないクリーン・エネルギーである。そうなればやがて、他の天体に殖民し、宇宙に生命を広げる夢の実現に踏み出せる。冷たい無機的な宇宙と生命にあふれたにぎやかな宇宙。遠い未来がどちらになるのか。これから2・30年間のわたしたちの行動しだい。たまたま今の時代に生きているため、とてつもなく重い選択を背負わされた。
過去の大絶滅は宇宙や地球の変異が原因だった。温暖化によって滅ぶのは自滅である。温暖化は、ヒトが自分の責任でヒトとその文明を存続させるのか、自滅するのかという問題だ。今のわたしたちの行動がわたしたちの孫やひ孫を生かしも殺しもする。
次回は〔どう行動すべきか〕を考えていきます。