〔大きな歴史〕
現在を理解するために過去を顧みるのが歴史だとすれば、宇宙と生命の変遷をたどることも歴史といえ
ます。いわば大きな歴史です。しかし学校教科としての「歴史」の対象は、たかだか最近1万年程度のヒ
トの営みに限定されています。小さな歴史です。最近はテレビや新聞などでも温暖化などの環境問題が取
り上げられる機会が増えました。わたしはこの問題を、いま在る人の生活や小さな歴史の視点からだけで
なく、地球生命史のエピソードとしても考える必要があると感じています。
わたしたちの宇宙が始まってから137億年。太陽系が誕生して46億年。地球に生命が現れてからは
39億年ほど、と推定されています。39億年のうち33億年は細菌、菌類、藻類などの微小生物の時代
でした。動物や植物の大型多細胞生物の歴史は6億年弱です。スティーヴン・ジェイ、グールドによる
と、いままで現れた種の99パーセント以上はすでに絶滅しているそうです(早川書房『がんばれカミナ
リ竜』)。
彼の進化論のイメージは、種から芽を出して成長し、たくさんの枝を茂らせる植物です。枝の一つ一つ
が生物の種。そのうちいまも生きて成長している枝は1パーセントに満たないということになります。2
0億年ほど前に、何千万年もかけて、微小生物を大量殺戮したのはシアノバクテリアです。それ以前から
生存していた種にとって、酸素は致命的な有毒ガスでした。シアノバクテリアは光合成によって大気を酸
化性に変えました。大型動植物の6億年の間にも、最大で95パーセントの種が滅ぶ大絶滅が何度かあり
ました。その原因は宇宙起源であったり地球物理であったりで、生物ではなかったと考えられています。
ヒト科、ホモ属、サピエンス・サピエンス。わたしたち現生人類の分類名です。ヒト科が分岐したのは
約600から800万年前。この科でヒト以外の最後の種であるホモ・サピエンス・ネアンデルタレンシ
スが絶滅したのは約4万年前とされています。近年になってヒト科の別な属、アウトラルピティクス属の
一種が、同じころまで生存していた痕跡が発見されました。ともあれ、たくさんの小枝を茂らせていたヒ
ト科の生物が次々に滅び、残るのはわたしたちだけです。近縁の別な科に属する大型霊長類のボノボ、チ
ンパンジー、ゴリラも急速に絶滅に向かっています。
恐竜は分岐を繰り返して2億年近く繁栄を持続しました。その彼らが、大空に活路を求めた種を除い
て、すべて絶滅するのが約6500万年前。恐竜の退場を受け、哺乳類が急激な分化を遂げます。その果
てに現れたわたしたちの仲間は、大きな歴史の時間スケールでは一瞬でしかない600から800万年の
間に、生まれたかと思うとすぐ現生人類一種だけにやせ細ってしまいました。(このテーマは続きます)