霧氷のはしり

イメージ 1

イメージ 2

イメージ 3

イメージ 4

イメージ 5

 まだ美幌川の川面に立ち込める霞は淡く、枯枝を飾る霧氷もそれほど厚くなっていません。霧氷のはし

りというところでしょうか。それでも厳寒の季節に近づいている感じはあります。


 少し長くなりますが、ニコチン中毒者の繰り言に付き合ってください。

 わたしが手術を受けた町立病院がいまは全面禁煙になっています。今度入院する破目になったら、喫煙

室のある病院を探さなくては。ひところタバコの値段倍増案がにぎやかでした。今度も増税が実現寸前ま

でいっています。見送りになった理由は、やめる人が増えて税収減になる懸念と、タバコ農家などの票が

減る心配のようです。タバコ中毒者の気持ちや喫煙する貧乏人の懐を心配する声はありませんでした。病

院の全面禁煙にも増税にも、嫌煙派はもろ手を上げて、「当然だ!」と合唱するのかな。

 「タバコを吸う人はどんなに冷遇してもいい、それに耐えかねて禁煙するならけっこうじゃないか」が

「正義の世論」になっているようです。タバコ増税派の政治家にもタバコ呑みはいますが、値段が2倍に

なろうが3倍になろうが、きっと彼にとっては「たかがタバコ銭」に過ぎないのでしょう。

 慣習化した後で、タバコがマリファナより依存性が強いと知りました。その脳内機序について学習もし

ています。ですから息子には、慣習化するとやめられないから一切手を出すな、と言ってきました。子ど

もにタバコの害を説くことには大賛成です。吸いはじめたころは、そんな知識はどこからも入ってきませ

んでした。国の組織である専売公社がカッコいい喫煙シーンを盛んに宣伝していて、成人すれば周りから

勧められる雰囲気でした。

 わたしが手を出したのは宣伝のせいでも勧められたからでもありません。60年の政治の季節が終わり、

学生寮で悶々としていたある日、タバコを吸ったら気が楽になるのではないかと突然思いつき、同室の人

にもらって試してみました。立て続けに3,4本灰にしたら、ウソのように安らいだのが始まりです。で

も、当時マリファナより依存性が強いと知っていたら、けして始めなかったと思います。わたしは臆病者

です。危険を知っていたドラッグには、一度も気持ちが動いていません。

 アメリカではタバコ会社に対する訴訟が勝訴したと聞いたことがあります。日本では国を相手に裁判を

起こしてもムダですね。政治家はかつての国の責任に完全に頬被りして、「自己責任」を言い立てるだけ

です。たいていの人は、甘言を弄してヤクに誘い込み、断ちきれない中毒にしてから高額で売りつけて組

の資金源にするヤクザを、許せないと言うでしょう。同じことをニコチンで国がやったのに、親方日の丸

の国ですから、嫌煙派の国民も尻馬に乗って喫煙者にだけ矛先を向けます。

 もっと若かったり、養うべき家族があったりすればともかく、老い先短いいまとなって、ニコチンに対

応して増殖した受容体を減らすべく脳内改造に挑んで、ストレスを溜める気にはなりません。前回の入院

で手術後2,3日して、喫煙室で煙を吐いていたときの穏やかな気持ちは、今でも鮮やかに思い出せます。

ひょっとして、タバコによるストレス解消が、再発も転移も免れているひとつの要因というようなことは

ないでしょうか。ストレスは免疫機能を大いに妨げると言われていますよ。

 討論の場で、ある若者が、「吸っている本人より周りの人のほうが健康被害は大きい」と主張している

のを聞いて、唖然としたことがあります。ニコチンを直接摂取する本人より、薄められた煙を吸うほうが

害は大きいという主張の、非論理性を彼は認ません。その場の多数意見を代表する「正義」に酔って、ど

のようにでも喫煙者を追い詰めていいという気持になったのでしょうか。若いときの自分の似たような感

情に気づいて、一人赤面する思いになることがあります。

 味方と思える多数の喝采に乗ってしまうと、逆らう異質な少数者の心情を思いやることを裏切りのよう

に感じてしまう、そういう心の仕組みがヒトには備わっているのかと思うことがあります。だから、日本

軍国主義マッカーシズムスターリニズムファシズム、中国の文化大革命などの時代に、多くの人

が冷酷な迫害行為に加担したのではないか、と。もうひとつヒトが本来もつ力、他者への共感能力を麻痺

させてしまう類の大衆的熱狂を思うと、慄然とします。

 オランダでこんな試みがあったがあるとかあったとか。麻薬中毒者に無料または軽費で比較的害の少な

い麻薬を定期給付する。ある自治体は、差しさわりがあるので公表はせずに事実上、障害者、老人などの

性的弱者がセックスボランティアに支払う費用を援助した、などです。「みんなのQOLをだいじにす

る」を突き詰める成熟社会ならではのこと。いまや世界に冠たる階層分断国家になってしまったアメリ

では、喫煙者の人格蔑視の流行と、社会的格差拡大が、軌を一にして進行しました。異質な弱者のQOL

が無視される社会は、未熟だと思いませんか。