塘路湖のほとりで

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 第一部
 まだ釧路湿原の話題が続きます。11時ごろ細岡からカヌーの出る塘路湖畔に移動しました。乗船は12時半ですから、ゆっくり腹ごしらえして周辺の散歩をしました。観光施設館では釧路湿原の四季を映したきれいな映像を上映していました。観客はわたし一人でしたけど。ここにも町民パーク・ゴルフ場とキャンプ場が併設されています。向かいのホテルの裏には青サギが巣を作っているそうです。ホテルかキャンプ場に泊まって、ゆっくり魚連りでもしたらいいでしょうね。北海道には本当にたくさん湖がありますが、本州の観光客がよく来るところは限られています。塘路湖などしっとりしたいい湖ですけどあまり知られていないようです。
 写真は釧路川沿いを走る釧網線の列車、岸から撮った釧路川、それに塘路湖です。

 第二部
     
       フィンランド・モデルは好きになれますか 4
1 フィンランドの風土と歴史
 (3) 国家ビジョン
 この項ではЛ┃の他に、ネット上でフィンランド大使館が提供している英語訳されたフィンランド憲法の条文を参照している。条文の邦訳は筆者。

 その国の人々が目指す国家の姿は、本来は憲法に描かれているはずである。だが日本ではちがう。国の指導者のほとんどは、憲法に描かれた国家ビジョンを、日本のあるべき姿だと認めていない。そして実際に、憲法が目指したものとちがう方向の法案と政策がどんどん採用されている。では、国民多数が同意する国家ビジョンはどこにあるのか。どこにもない。そこで、政党幹部やトップ官僚や経済界の指導者や陰の実力者たちなどが、それぞれのグループの利益や信念や心情を、恣意的に政治に反映させることができる権力をめぐって、互いに暗闘を繰り広げる。その結果しだいで政策が揺れ動く。権力配置の変化は国民のあずかり知らぬ事情でおきる。国民は、変化を追認し受忍することだけを求められるから、国家も政治も指導者も信頼しない。
 現代社会は国家ビジョンをもたないと、求心力を欠き、不安定感が増大する。いま日本では、そこにつけ込んで、国民より国家を重視する帝国主義時代へのノスタルジァを掻きたてようとする勢力が、活発に動いている。この国は「国家」のために繰り返し棄民してきた過去をもつ。侵攻してきたソ連軍の前に満州移民を放置した関東軍。国体護持を策謀してポツダム宣言受諾を遅らせ、広島と長崎の住民を原爆に被災させた戦争指導者。農村の過剰人口を中南米の不毛な荒地に廃棄した外務省。中東で住民支援をしていた活動家が、テロリストの人質になった事件は、そんなに前のことではない。このとき、政府に従わなかったのだから国が救出する必要はないという声が、政府部内からさえ聞こえてきた。棄民をためらわない政治思想が、この国では生き残っている。フィンランドの国家ビジョンはこの思想の対極にある。
 いまのフィンランド憲法は1999年に改定されたものである。スウェーデンの統治が苛酷になれば親ロシア(後には労働者独裁を叫ぶソ連邦への参加)、ロシアが弾圧を強めれば親北欧(資本主義の西欧)、感情が揺れ動きフィンランド人の中でも意見が割れる。そういう経験を何度も繰り返し、フィンランドフィンランドという行き方を確立するしかないのだという決意が、しだいに強固になっていった。その結果がこの憲法である。以下フィンランド憲法の条文を手がかりに、この国の国家ビジョンを探ってみる。

 第56条は、大統領就任のときに議会でなされるべき宣誓の文言を次のように定めている。

  フィンランド国民によって共和国大統領に選出された私は、ここに厳粛に誓う。大統領の職務におい て、私は良心にかけ真摯に憲法と共和国法を遵守し、能力の限りフィンランド国民の福利を促進する。
 
憲法と法の遵守、そして国民福利の促進は、憲法全体を貫く二つの柱である。まず後のほうから。第6条は平等を規定するが、日本国憲法とちがうのは、差別禁止の項目に年齢と健康と障害があること、子どもの個人としての決定権が尊重されるべきだという規定、そしてこの文である。

  両性の平等は、社会的活動と職業生活で、なかんずく賃金と就業条件において、法に規定するとおり に促進される。

 フィンランド憲法の各条文は実際の政策によって実現されている。日本のように棚に飾られている「美しい理念」などではない。高齢者や病気療養者や障害者が、人としての尊厳を失わずに生きられるように支援する制度が充実している。女性の職場環境は男性との差が限りなく小さい。学校では子どもの自発的活動が尊重され促進されているし、大学生の代表は教育政策策定に参加できる。憲法が実際に縛りになっているから、政権交代があっても、予算配分の重点がいくらか移動するだけで、根本の方向が変わることはない。
 第16条は教育についての諸権利である。基礎教育が無償なのは日本と同じだが、その後がちがう。自分の能力と各自の必要に応じて、経済的困難に妨げられることなく、自分を伸ばすためのそれ以上の教育を受ける、平等な機会をだれにでも保障するよう、当局に命じている。この命令は次のように実行されている。公立の大学も高等職業学校も学費はかからない。親と別に住む学生は国から家賃の80%を助成され、18歳以後はそれとは別に月額250ユーロ(現在のレートだと約3万4千円)の奨学金を支給されるが、ともに返済は不要である。さらに月額220ユーロの奨学ローンは国が保証する。基礎教育の9年間の給食も無料である。障害のある若者のためには、職業教育と就職支援のための大規模な施設が作られている。憲法の条文は空文句ではない。
(この項続く)