舞う落ち葉 ムダの効用 31
サイタマンさん、『智恵子抄』じゃないけど、都会にはほんとうの空がない、って感じですよね。
はらはらこぼれたり風で空中に舞い上がったりする落ち葉はなかなかおもしろく、何
度もカメラに収めようと試みましたが、どうもうまくいきません。野鳥ならずっと目で
追っているとどこかに止まったり、飛ぶ方向の見当をつけてカメラを動かしたりできま
す。落ち葉は地上に達するまで止まらず、動きを先回りできないので、野鳥より難しく
て。30回ほどシャッターを切って、なんとかピントが合っていたのは3枚だけです。
〔ムダの効用〕
31 生活満足度国別ランキング
グ(④)を中心に、その他の指標とともにまとめたものです。エクセルをあまり使ったこ
とがないので、習得しながら作成する時間を惜しんで手書きにしました。見にくい点は
ご容赦ください。国は、アメリカ、日本、北欧諸国を入れる他は基準を決めず、地域や
数字の分散を考慮した上で、適当にピックアップしました。
①の一人当たり国内総生産=GDP(ドル)は、二ノ宮書店のデータブック2010から。 2007年の数字
です。②のEFはエコロジカル・フットプリントのことです。ある地域や国の人々が消費する生物資源を産
み出し、廃棄物を浄化するために必要な陸地および水域の面積を、標準化された面積=グローバルヘク
タール(gha)で表したものです。③のBCはバイオキャパシティーの略で、当該地域・国の生物生産力を
ghaに換算しています。BC-EFの結果がマイナスであれば、不足を他国に依存しているか、環境を食
いつぶしているかです。ちなみに、2005年現在、世界全体では一人当たり-0.6gha。すなわち一人
F )の最新報告(2008年)で、数字は2005年のものです。
⑤の平均寿命も二ノ宮書店のデータブック2010から。元は世界保健機構のデータで
数字です。⑦のジニ係数は、国民の所得格差を表す指標のひとつです。わたしがアクセ
スできたなかで一番新しい、米CIAの数字を使いました。データの年度は1990年代
末から2007年までばらばらです。
空白領域がありますから、正の相関が認められます。だいたいのところ、豊かな国は環
境消費も大きいということです。ノルウェーとスイスは相関直線の左上に大きく外れて
います。国民の平均的富の大きさに比べ、相対的に環境を消費する割合が小さいことに
なります。情報・サービスなど、非物質的付加価値の大きい産業が発達しているという
ことでしょうか。右下へのずれが大きいアメリカ、中東2カ国、それにオーストラリア
はその逆です。
源消費が生物生産力を超えていない国々です。石油資源豊かで人口が少ない中東2国以
外で、マイナスが大きいのはアメリカと日本。国内資源を食いつぶし、世界各地の資源
を侵食する度合いが大きくなっています。国土面積が大きい中国と表に入れなかったイ
ンド(-0.5)は、すでにマイナスです。この両国は世界人口の37.5パーセントを
占め、生活水準が急激に向上しています。地球環境とヒトによる消費の収支は、前世紀
末から赤字です。赤字が転がる雪だるまのように大きくなる局面が始まっているという
ことです。日本国の財政破綻は、経済政策に国際干渉が行われ、国民が窮乏生活を強い
られる結果になるだけです。しかしグローバル環境収支破産の結果は、人類滅亡の可能
性を孕む文明崩壊です。
グラフ中で国名に付した数字は生活満足度ランキングです。年間平均所得が10,0
00ドルに満たない国はだいたい順位が低くなっていますが、目立つ例外は13位のコ
い1、000ドル未満の国が、すべて90位以下と低いのは予想通り。所得が40、0
00ドルに近いのに90位の日本と20,000ドルに近いのに102位の韓国は、学
校や職場内での競争が特に激しい国です。
生活満足度は本人の主観的判断ですが、国民の平均寿命には、満足度の経済的・社会
的基盤ともなる栄養・衛生・医療・安全などが、かなり反映していると思われます。い
率をランク付けしたもの、New Economic Foundation 作成 )では、最上位にランクされて
います。日本は世界一の長寿国なのに、生活満足度が低くBC-EFは大きなマイナス
リカは114位です。
SWLポイント
上のグラフから、生活満足度とジニ係数に負の相関が認められます。所得格差が大き
くなると生活満足度が低下する傾向があるということです。⑥の相対的貧困率からもほ
ジニ係数も45。先進国で最も格差が大きい国です。それでも生活満足度はわりあい高
く、23位です。
に発表したアメリカでの調査が手がかりになりそうです。報道によると、生活満足度の
回答は理性的判断を求める質問に対するもので、年収が高いほど満足度は高くなった。
しかし、よい感情・悪い感情の経験を問う幸福度の調査では、年収が7.5万ドルを超
えると増加しない。「高い年収で、満足は買えるが幸せは買えない」、という内容です
カは住宅=金融バブルが最高潮に達していました。所得や資産を基準とする地位向上を
うか。バブルがはじけて失業や住宅差し押さえが増加している現在、満足度が低下し、
ジニ係数との相関直線に近づいていると思われます。
19章から26章で、狩猟採集社会の伝統を色濃く残すグイの人々が保持していた、
ともにくらす人と人の間で交感を深める繊細な文化装置を見てきました。そして28章
で、現代文明を生きるわたしたちにとって、幸福感に一番多く影響するのは、生存を脅
かす貧困以外では、対人関係であると指摘しました。グイの文化装置は自覚的な目的意
識で維持されていたというより、おしゃべりから語りにつながる会話を楽しむ生活慣習
に支えられていました。おしゃべりの種となる葛藤につながるザークを禁圧せず、「○
○すべき」ではなく、会話を楽しむ結果として心の交感が深まり、共有「センス」が再
生産される装置の一つとして活用しました。わたしたちは、例えば縄文時代の祖先がき
っともっていたにちがいないグイの人々に似た生活慣習を、非効率的で野蛮なものとし
て捨て去って階層社会を営んできました。その結果が、現代の国際比較でも、生活満足
度90位です。
さらに29章以降で、地位と所得の格差が生活満足度を損なうことを見てきました。
菅原さんの報告によれば、グイ社会では、これはある程度意識的に、権威・権力を抑制
していました。もともと狩猟採集段階では、食糧の長期備蓄・運搬ができなかったの
で、財の観念が生成しません。農牧民が現れて、彼らの備蓄・運搬可能な食糧などとの
交換が始まってから、毛皮や牙、それに特産保存食や特定の鉱物などが、財として意識
されるようになります。それまでは短期間で消費できる以上の余剰はムダでした。まわ
りにいる消費可能な人に分配するのは当然。それに狩漁・採集・加工は、衣食住を支え
る生活行為であると同時に、現代で言うスポーツ・娯楽でもあったのです。その免除
は、快ではなく不快と感じられたでしょう。狩猟採集民に地位と所得の格差が生じる余
地はありません。
交感が重んじられ、格差が存在しないのですから、例えば縄文人に生活満足感や幸福
感を問うことができたら、現代のどの国民より高い数字になると思います。ではなぜ、
幸福感を損なう農牧にもとづく文明が発達したのか、それが次の章からのテーマです。
(続く)