氷と灯台

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 まりさん、そちらも冷え込むようですね。室内は暖かいと思いますが、外出にはお気をつけて。


 能取岬灯台の南東に突き出した崖の先に群氷が弧を描いて、その先端は群青の海にまばらに消えていま

す。隠れた浅瀬があるのでしょうか。南下してきた流氷から千切れた氷塊が引っかかっているのか、陸に

接するところから海氷が成長しているのか、わたしにはわかりません。三枚目は南の崖下です。蓮の葉氷

も見えています。


                  〔『46年目の光』5〕

 メイは手術後、三歳までの視覚体験があったからでしょうか、色、動き、単純な平面図形は認識できる

ようになりました。最初は歓喜し、夢中で世界を見ようとしますが、やがて、顔のように、輪郭は見えて

いても意味を伝えてこない対象がたくさんあることに気づきます。また奥行きや、記憶とちがう角度を向

けている物体は、まったく認識できません。彼にとって段差や出っ張りは完全な平面模様です。さらに、

皿とその上に乗せられた食べ物のような、地と図も区別できません。目をすぐそばまで近づければ大文字

のアルファベットはわかりますが、単語の意味が浮かび上がるまでに一分かそれ以上かかります。

 音、手触り、色、場所柄、脳内に蓄えた地図や知識などを総動員し、目に入る対象を認識しようとし

て、彼は疲労困憊します。わたしたちは日ごろ、無意識のうちに何の困難もなく見たものを了解していま

す。彼の脳にはそれがとてつもない負荷のかかる重労働なのです。それでもメイは慣れてくれば改善され

ると思って耐えていました。

 そんなある日彼は、視覚研究をしている若いドクター(博士)から電話を受けます。三歳で失明して視力

を回復した稀有な症例を調べさせて欲しいとのことです。メイは承諾しました。検査でわかったことは:

細部(高空間周波数成分)を見る能力、奥行きのある物体を識別する能力がほとんど機能していない。人の

性別や表情がわからない。メイはこれらの機能にかかわるニューロン(細胞体と線維から成る神経単位)を

もっていないらしい。この先も意識せずにものを見られるようになる可能性はあまりない、というもので

した。

 慣れれば改善するというメイの期待は打ち砕かれました。「自分の命を危険にさらし続け」ながら、

「死ぬまで永遠に、視覚と認識の重労働、情報の洪水、深い疲労感とつき合わなくてはならない。」(339

頁)彼は深い絶望に捉われます。(続く)