桜よりなお桜色
日々とはちがう、生々しいさまざまなことがあるのでしょうね。
こちらに移った初めのころ、遠出が難しく野山に花のない冬は被写体に乏しいと思っていました。いま
は、近場に美しいものが最も多く溢れる季節だと感じています。特に晴れて冷え込む日が増える1月末か
ら2月は、枯れ木、枯れ草、荒地、濁り水、ウチの汚れた窓など、他の季節ならカメラを向ける気になら
ないものが、多様な造形を施されて、豊かな表情を見せてくれます。なかでも霧氷は、光、川岸の様子、
草木の枝ぶり、気温などでさまざまに変化し、何度見ても飽きることがありません。
わたしの貧しい技術とセンスでは、肌が感じ目が見耳が聞く魅力をほとんど表現し切れません。訪れて
くれた方を、前にも同じようなのがあったじゃないのと、失望させることが多いのでしょうね。それでも
もたまたま自分で満足できる一枚が混じることもあります。冒頭に載せた一枚がそうです。わたしの葬式
のとき、醜い顔写真の代わりに掲げて、彼はこの光の中に溶けこんだよと祝ってもらいたいほど、気に入
りました。
陽が昇った後の1時間ほどでしょうか、霧氷の木々が桜色に染まって、満開の桜公園に劣らない華やか
な風景が現れます。冷たい清潔な空気とオホーツクブルーの空が、気をゆるませる春景色とはちがう端正
さを強調しています。ここに住みなれた人はあまり感じないかもしれませんが、本州では苦労して冬山に
登りでもしないと目にすることができないすばらしい光景です。一歩外に出るだけでそれに出会えるので
すから、とても贅沢なことだと思います。