カワラハハコの白は濃く

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 花の白さにも、淡いもの、清楚なもの、透明感のあるもの、輝くものなど、さまざまあります。能取湖

畔の原生花園に群れていたカワラハハコの白には、年配の美しい女性のような濃厚さを感じました。


 少数の上流と大多数の中・下流に大きな所得格差がある社会で、社会保障制度が後退すればどういうこ

とが起きるか、その見本が現在のアメリカです。この国も1980年ころまでは、公的医療保険制度を

徐々に充実させていました。1981年にレーガンが大統領に就任して以降、小さな政府路線に舵が切ら

れて潮流が変わります。ブッシュ親子の共和党政権も方向は同じです。軍備・治安と、食糧・エネルギー

を中心とする企業への公費注入は続けて、医療・介護・保育・教育・年金・災害対策などへの公的支出を

削減し、可能なものはすべて民営化する方向です。クリントンは民生重視の伝統がある民主党の大統領で

したが、共和党優位の議会に妨げられて潮流を変えられませんでした。

 1970年代にはホームドラマで見るアメリ中流家庭の豊かな生活が、日本人の憧れを掻き立てまし

た。ところが、01年には同国の上位5パーセントの富裕層が国内資産の60パーセントを所有し、上位

20パーセントが84.4パーセントを所有するに至ったそうです(「リアル投資学!」07・02・13という

サイトで拾った数字)。06年発表の国連データでは、上位1割の所得が下位1割の15.9倍で、先進

諸国では格差が最大になっています。17.09パーセントの相対的貧困率(1990年代後半で比較し

OECDデータ)も同じです。中流がやせ細り格差が拡大していることは、他のさまざまな数字からも明ら

かです。

 アメリカの人口は約3億。経済・科学・文化・スポーツなどで活躍する豊かな人々は1割だとしても、

絶対数としてはかなり厚い社会層です。彼らの情報発信力は残り9割全体をはるかに凌駕するでしょう。

才能を自由に伸ばしていくらでも豊かになれる社会のイメージが流布されて、世界中から有能な人材をひ

きつける誘因になります。外来の才能のなかでも特に有望な若者を厚遇し、その能力を活用することで、

埋もれる自国貧困層の才能損失を補い、国の活力が維持されます。ドラッグ・精神的身体的傷病・銃犯

罪・高い乳児死亡率などで失われる下層労働力は、アジアや中南米で米国への移住を望む貧しい人々か

ら、政治指導者が適正と思う数まで、望むままに補充できます。広い国土と地下資源にも恵まれていま

す。

 アメリカにはこれらの条件があったので、成功した富者はますます富み、貧者は這い上がる希望を奪わ

れて生存を脅かされ、中流は上昇する少数と没落する多数に分解し続けても、サブプライム・バブル破裂

までの約20年余は、世界の覇者として君臨を続けられました。サブプライム・バブル破裂は、中流生活

者の消費停滞を補おうと、中流下層・下流上層にまで信用を拡大して無理に消費需要を創出した結果で

す。救済ネットである社会保障が弱体なままで所得格差が拡大して、消費の中核である中流社会層が分解

して薄くなれば、いくらアメリカでも、いつまでも経済繁栄を続けることはできません。

 格差拡大のなかで経済繁栄を維持する条件は、日本の方がアメリカよりずっと貧弱です。上流社会層に

は厚みがありません。外国から才能を誘引する自由という魅力が欠けています。身内の結束やひいきとい

う因習が外来の才能の厚遇を妨げます。日本に留学した親日家の科学者が、「日本の研究者コミュニティ

ーは欧米とは比較にならないほど序列的で、とても日本社会に溶け込める気はしない」と、語ったそうで

す(「日経サイエンス」08年9月号121頁)。「日本人は単一民族」と誇る政治家を大臣にする国です

から、異文化を携えて来日する下層労働者をくつろがせる懐の広さもありません。その上、耕地にできる

国土は狭く、地下資源にも恵まれていないのですから。

 「失われた10年」に先立つ何年間か、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」という表現が聞かれるほど

この国の経済が繁栄していたころ、「総中流化」という言葉がはやりました。企業と国による生活保障が

かなり整い、その安心感を背景に活発に消費する中流層が育っていたということでしょう。ところが今で

は、所得格差の指標となるジニ係数がどんどん悪化し、米英に迫っています。さらに、企業の生活保障能

力には期待できなくなりました。中流層の分解を防ぐ役割は、公的社会保障が担うしかありません。生活

の安全ネットを拡充し、所得格差を縮小させ、生活破綻をできるだけ防ぐ。それは倫理や社会正義の問題

である前に、日本経済の活力を維持するために最も重要なことです。

 わたしも今後の医療保障を信頼できて、蓄えが尽きても健康で文化的な最低生活は保障されると信じら

れたら、わずかな虎の子を吐き出して旅行や写真機材の購入に使い、国内消費活性化にささやかな貢献が

できますのに。

 (このテーマ終わり)