やかさを感じますが、数時間後には消えるはかないものです。
〔家族の情が格差解消を妨げる? 2〕
ビル・ゲイツが、親のおかげで子どもが豊かになる相続制度には賛成しないといいう意味のことを語っ
たと、新聞の記事で読んだ記憶があります。一代で財を築いた成功者だから言える言葉かもしれません。
開拓時代とちがっていまは、アメリカでも裸一貫から成り上がる成功者は、少数になっているのでないで
しょうか。例外だからこそ、ビル・ゲイツやプロスポーツのスターなどに脚光が当てられます。まだアメ
リカン・ドリームに、国内の若者を励まし、野心をもつ人々を国外から引きつける力が残っています。
「子どもに有利な地位を贈りたい」がホンネでも、公式イデオロギーは「努力と才能で成功する」です。
経済大国からの転落におびえる人が多い日本では、事情がちがいます。自分の子どもに特別な才能がある
とは思えない。せめて少しでも有利なスタート・ラインに立てるように、いい学校に入れてやりたい。何
かあったときに援けになる財産を残してやりたい、そう思う親の気持ちが後ろめたさもなしに語られま
す。
『人間の本性を考える』(NHKブックス)の14章で、認知科学者のスティーブン・ビンカーは、家族
の親愛は遺伝子に根拠がある人間の本性だと主張しています。だからソ連や中国で一時行われた、家庭で
はなく集団で食事をし、子どもを親から離して育てる試みはうまくいかなかったし、イスラエルのキブツ
でも衝突があった、と。確かに、家族の情には人為的な制度とちがう自然さが感じられます。日本でも
「新しい村」のような、私有財産を否定する集団生活主義の団体には、なにか不自然なところがありま
す。
家族を重視し、財産権の一部として相続権の尊重を求める主張は、家族の自然な情に基づく面があっ
て、市民社会を侵食する国家権力や宗教権力の膨張に対する抵抗の根拠にもなります。しかしまた、優勝
劣敗を肯定し、有産階級の優位を擁護するイデオロギーの一部にもなります。家族と共有し、子に渡す楽
しみがあるから、才能をみがき努力を傾けて成功を勝ち取るのだ、というように。さらに、戦前日本の国
家指導者は、国家主義イデオロギーを支える擬制として、家族関係の情緒の簒奪を企てました。天皇を親
に国民を子に擬制して、学校で徹底的に教え込みました。そして実際、「お母さん」と「天皇陛下」を重
ね合わせる情緒が兵士を動かす場面もあったようです。
家族の情は昔から変わらないものであっても、家族を囲む社会やイデオロギーによる利用の仕方は、時
代や地域でさまざまです。その表現にいろんな形が可能だからでしょう。北欧のような高度社会保障制度
とも、必ずしも対立するものではないと思います。アメリカや日本で「対立する」と考えられがちなの
は、親が子どもに「しあわせ」を与えられる・与えるべきだと信じる人が、両国に多いことが原因なので
はないでしょうか。(続く)