斜里岳くっきり 大きな歴史 2

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 美幌峠から屈斜路湖に向かって下りはじめるとすぐ、白銀輝く斜里岳が左手にくっきり見えました。オ

ホーツク地方のほとんどどこからでも見える、道東の山々の盟主です。冷涼な冬の、空に水蒸気が少ない

午前中でしたから、輪郭も雪も鮮やかです。撮りたかったのですが、急カーブの山道で駐車できません。

帰りに峠でカメラを構えたときには、だいぶ霞んでいました。


〔大きな歴史 2〕

 ここ50年の間に、宇宙や地球の物理についてはたくさんの新しいことがわかりました。天体の専門家は

20億年後の太陽系の姿を、地球物理学者は100万年後の大陸の形を、自信をもって語ることができま

す。しかし、人の心や社会を動かす法則については、確かな知識はほとんど得られていません。だから、

100年後にわたしたちのくらしがどうなっているかを語る言葉には、SFと同じような想像が含まれてい

ます。物理学者はヒトが大きな歴史に干渉できないという前提で、宇宙と地球の未来像を描きます。

 ほぼ60年前から徐々に核兵器の実用化が進み、30年くらい前から化石燃料消費や排出物による地球

環境悪化が問題にされるようになりました。それに伴い、人の営みが地球の未来に干渉する可能性が意識

されはじめています。小さな歴史で初めてのことではないでしょうか。メソポタミア黄河流域の文明が

滅びたのは、増えた人口が森林を消費しつくし、環境を悪化させたためだという説があります。しかしそ

の後も、さまざまな文明が興り人口は増大しています。環境破壊は局地的な出来事でした。

 いまは、全面核戦争、人類全体のエネルギー・食糧・水の枯渇や廃棄物による環境汚染、地球全域に及

ぶ気候変動などが、絵空事とは言えない時代です。初めて人類全体の運命が意識に上り、俗受け狙いの評

論家やマスコミ人が、大きな歴史と小さな歴史を安易に交叉させて、「地球にやさしく」などいう言葉を

流布させました。S.J.グールドは、いま地球上にあるすべての核爆弾が爆発したときの衝撃を、6500

万年前におきた小天体衝突の1万分の1と、見積もっています(前掲書 19頁)。小天体衝突で50パー

セントあるいは70パーセントの種が絶滅したと言われます。100年後に気温が10℃上昇していて

も、たかだか白亜紀に並ぶだけのこと。あの時代には恐竜や巨大植物が大繁栄していました。

 1万年は宇宙時間から見れば瞬間です。ヒトはここ1万年余続いた例外的に温和な気候に過適応して大

急ぎで文明を築き、人口を67億人にまで膨れ上がらせました。過適応ですから、文明は環境のわずかな

擾乱で大打撃を受けます。「地球にやさしく」という標語は、アリが「地面を壊さないために気をつけて

巣穴を掘ろう」と言い交すようなものです。巣が崩れても、周辺の微小生物を巻き添えにして自分たちが

滅びるだけのことで、地面は無傷です。全面核戦争でも地球は太陽系から弾き出されたりはしません。人

が出す温室効果ガスで地球生命の進化が止まることもありません。これまでも、全球凍結(氷雪が地球の

赤道にまで達する寒冷化)や、大陸合体による灼熱がおさまった後に、新しい種が爆発的に分岐繁殖して

います。

 ヒトが恐竜ほど長く種の命を継ぎ、文明を発展させればどうなるかわかりませんが、いま程度の科学技

術では、太陽系の運命を変更したり、地球生命の進化を妨げたりはできません。宇宙には文字通り星の数

ほど太陽(のような恒星)があり、その多くが惑星をもつと考えられています。大きな歴史のなかでは、ヒ

トが地球という小さな惑星の表面にもたらす擾乱など、ものの数にも入りません。1994年のシューメ

ーカー・レビュー彗星の木星衝突のほうが、まだしも宇宙的事件というものです。(このテーマはもう一

回続きます)