映画っていいですねー(亡き淀川にぎにぎおじさんのキメ・ゼリフでしたっけ)。スウェーデン映画の
『歓びを歌にのせて』(ケイ・ポラック監督)を見ました。病気でクラシック界から退いた音楽家が、田舎
の聖歌隊を指揮して再びひのき舞台に上がる話です。人の心を開放し融合させる音楽の力がメイン・テー
マのようですが、背景として出てくる男女関係の撮りかたがおもしろかった。
田舎の、男本位の古い家族からなる地域社会に、音楽の魅力を知った女たちと、個人主義的なヒーロ
ー・ヒロインの関係が、湖に投げられた石のように波紋を広げます。家族のくらしや世間のしがらみのな
かで、男女の愛や個人の尊厳を貫こうとすれば、何が起きるか。どんな社会でもいつもあるそういう問題
を描く、福祉の充実した成熟社会の作家の視線は、韓国とも日本ともちがいます。だましたり誠実を貫い
たりするのを、カネを絡めず、ひたすら心のつながりの問題として扱っています。セックス・シーンもそ
の一部として、タブー意識も思い入れも感じさせない乾いたタッチで、自然に撮られていました。
わたしは韓国の映画やドラマをよく見ます。駄作も少なくないのですが、若い文化の活力と最新映像テ
クニックが結びついた、魅力的な作品に出会うことがありますから。たいてい男女関係やセックスにタブ
ー意識や過剰な思い入れがあります。それも若い文化の魅力ですけど、続くと飽きますね。日本だと韓国
よりは斜に構えたものが多いようですが、撮る視線がポラックのようには乾いていません。なんか、じめ
じめしたところがあるんです。
日本文化の内部にいると、知らず知らずのうちにその湿った感覚に感染します。スウェーデンや韓国な
どの映画では、わたしたちがなじんだものとちがう視点からの映像を鑑賞できます。それが外国映画の魅
力ですね。もちろんすぐれた作品なら国産でも、自分の常識を揺さぶられる魅力がありますけど。