ダイヤモンドダスト再び 支配欲

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 今朝はよく晴れ、-10度程度になりました。いくらかダイヤモンドダストが見られましたが、やはり

-18度以下にならないと、本格的ではありません。


 人の欲望の対象は人である、と言ったのは、カール・マルクスだっただろうか。いかにも彼らしい鋭い

洞察だ。カネがほしいのは物が買え、だいじな人を喜ばせられるから。物をもつのはそれを作った人のサ

ービスを私すること。景色を楽しめるのはそこに連れて行ってくれる人、景色を保全してくれる人がいる

から。宝石や美術品を所蔵していても、だれひとり感心したりほめたりしてくれる人がいなかったら、楽

しみは半減する。

 他人を直接支配する欲望を満たすことが、現代ではむずかしくなった。わたしにはそんな欲望はない

と、あなたは言うかもしれない。それはあなたが権力的な支配をイメージしているから。身体的・精神的

な罰やその威嚇によって、他人をあなたに奉仕させるのは、権力的で粗野な支配。洗練されたソフトな支

配には、例えば、あなたが好きな相手に自然にあなたを好きになってもらうように、働きかけることも含

まれる。他人を自分が好む行動に仕向けることを支配と呼べば、支配欲がまったくない人間がいるだろう

か。

 中流以上なら女中や召使を雇うのがあたりまえだったのは過去のこと。いまでは、お手伝いさんを頼

み、自家用車の運転手を抱えることは、とびきりのぜいたく。しかもカネを払ったうえに、気も使わなく

てはならない。大企業の経営者なら社員を、大臣なら役人を、おおぜい支配できる。部下のいない人で

も、親になれば子どもだけは支配したい。社長は会社のため、大臣は国のための指揮と言い、親は子のた

めのしつけだと言う。だが、支配欲の満足がまったくないのなら、社長や大臣になりたがるだろうか。子

どもが自分の好む方向で成長することに、親はうれしさを感じないだろうか。

 いまの日本ならハードな支配への嫌悪を公然と口にできる。意に染まない発言をする部下を罰する上司

には、横暴だという評判が立つ。各界有力者への根回しのへたな首相は、「権力的」と批判される。気に

入らない子の行動への罰が粗暴な親は虐待を疑われる。支配を洗練されたソフトな形で貫く能力を、宮台

真司の言葉を借りて、コミュニケーション能力と呼ぼう。長いから略して「ソフト力」としようか。現代

社会では、社会的場面でも個人的な生活でも、強い意志を最小の抵抗で実現できるソフト力の持ち主は、

成功する確率が大きい。だが、その場のコミュニケーションにたけていても、意志を貫く果断さがない不

完全なソフト力では、「八方美人」「日和見主義」とされて、信頼されない。

 小泉前首相は、ソフト力は物足りなかったが、果断さが際立っていたので、人気が高かった。それでも

本人は、自分の意図を浸透させようとして出会う抵抗に苛立つ気配があった。日本の各界トップには、欧

米に比べ、宮台の言う「コミュニケーション能力」のだいじさの認識度が低いようだ。はっきりした意図

を巧みなメディア利用と表現で浸透させ、同意を形成する能力は、むこうではとても重視されている。日

本の指導者には、権謀術数やメディア操作に熱心なわりに、自分の貧しい表現力を恥じない人が多い印象

だ。

 そういう指導者たちは、上位者への従順に誘導するテコになるような道徳心を強調したがる。愛国心

か公への奉仕とかである。彼らにとって理想の人材は、指導者の言外の意図を読み取り、自分から進んで

ボスに尽くす、実務に有能で忠実な部下なのだろう。一方日本の庶民には、一般論としては強権支配に嫌

悪を示しながら、個人として上位者に対すると、恩寵あるいは慈愛を期待する傾向が強いと思う。上から

も下からも、権力的支配を明確なルールと契約で制限しようとする強い動きは、なかなか見えてこない。