氷紋 熟年離婚

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 写真を喜んでもらえてよかった。今朝も寒さをこらえで30分ほど頑張ってみたけど、時々ちらほら光

の粒が流れるだけで、撮りそこなった華やかな光の乱舞の再現はありませんでした。載せたのは、悔し紛

れにシャツターを押した、玄関ドアの氷紋です。


 女性の社会的・政治的地位を示すジェンダー・エンパワーメント指数が、日本は先進国のなかでとび抜

けて低いどん尻なのは知っていた。男性を部下にもつキャリアー・ウーメンは、娯楽メディアでよくとり

あげられるので錯覚しがちだが、ごくごく少数の例外だ。いま橋本健二の『階級社会』(講談社選書メチ

エ)で、働く日本女性の地位を示す数字を見せられあらためて、熟年離婚がはやるのも、性産業に職を求

める女性が多いのも、もっともだと思った。

 40歳前後の被雇用者で比べると、男性は80%以上が正規雇用者なのに、女性は48%で、半数以上が非

正規雇用である。そして正規雇用でも女性の給与は男性の65%。事務、販売・サービス、マニュアル(手

仕事)職では、女性の収入は男性の3割から4割。事務職男性の半数以上が役職者なのに、女性の役職者は

3.6%。数字は04年のもの。事務職といえばホワイトカラーの印象があるが、女性事務職の大多数は命じ

られた単純な事務作業をこなすだけ(実行)で、頭を使う仕事(構想)を担うことはない。この点で彼女たち

のほとんどは、工場労働者と同じ「労働者階級」に属する。女性の多い職場の男性は、そうでない男性に

比べて、職務権限が強く、役職に就きやすいという。

 ここからわたしの感想だ。一般に女性は職場で、男性の「働きがい」のネタになることが多いわけだ。

低賃金で、他人の支配欲を満足させる役割を押し付けられて、楽しいわけがない。表世界の女性は反発す

るかもしれないが、その世界に入る女性にとって、「おんな」を売るのは、まだしもましな苦痛で実入り

が多い職業なのではないのか。女工哀史の時代と同じく、日本女性のかなりの部分が、労働市場の最下層

を構成させられる。その生活は、性を売る屈辱ほうがまだ耐えやすいほど、みじめかもしれない。

 とはいえ、哀史の女工たちは満足に字も読めず、村と工場を中心とする狭い情報世界に閉じ込められて

いた。現代は最下層労働者予備軍の女性も、ほとんどが高校には行っていて、テレビやマンガ・週刊誌な

どの情報に通じ、若い女の商品価値を意識している。手が届きそうもない「成績」に見切りをつければ、

上昇の可能性が絶望的に小さい職業生活が見えてくる。同時に、同じように上昇の道は細くとも、一時は

ちやほやされるかもしれない「おんな」を売る商売も視野に入る。アイドル、グラビアモデル、水商売、

フーゾク、AV、売春。程度の違いはあっても、はっきりした区切りのない地つづきの一連の世界。どこ

かに表と裏の世界を分ける一線があるらしいけど、うまくやれば線の内側にとどまれるかもしれないじゃ

ない。

 橋本は、女性が階級を上昇するのに二つの道があるとして、斎藤美奈子の、「職業的な達成(労働市場

で自分を高く売ること)と家庭的な幸福(結婚市場で自分を高く売ること)は、女性の場合どちらも『出

世』なのである」、という文を引用している。役所・大企業の役員・管理職予備軍、あるいは同等の社会

的地位がある自由業の男をゲットできれば、最下層労働者の地位を脱し、夫を通じて階級を上昇できる、

というわけだ。

 だがその夫たちもたいてい、職場で仕え・仕えられる慣習にどっぷりつかっていて、疲労と解放しきれ

ない情緒を家庭にもち帰る。ここで妻たちに期待されるのは、慰め・かいがいしく仕える役割。職場ほど

気を使わなくてもいいと思う分だけ、夫の要求は露骨になる。相手が一人になるだけで、女事務員や水商

売にも通じる屈辱感がなくなるわけではない。彼女たちが他人を支配する満足を経験するのは、かろうじ

て子どもに対してだけ。それもせいぜい子の思春期まで、一人で担わされる子育ての苦労の代償として。

 夫が定年になれば、階級的地位を求める妻を満足させる彼の役割は終わる。生協やPTA、それに趣味の

付き合いなどで、他人に尊重される喜びを知った。退職金の分け前も得られそうだとなれば、これ以上支

配される屈辱に耐え続ける理由はあるだろうか。

 妻帯している中高年男性の皆さん、ご用心ご用心。あなたの奥さんは、日本女性の社会的地位から来る

怨念を溜め込んで、あなた個人にぶつける心境かもしれませんよ。「そんなに悪い夫ではなかったはず」

というあなたのつぶやきは、奥さんにとってあなたが、男性社会日本の代表に見えている限り、通じませ

ん。彼女に対するあなたの努力は、女性にのしかかる社会の不条理を跳ね返せるほど、大きなものでした

か。