退しましたが、わたしが見たいヒンギスとシャラポアは頑張っています。
引退前の、少女だったころのヒンギスは、そんなに好きではありませんでした。母親に叱咤激励されて
無理している幼い子どもみたいな痛々しさがありましたから。ところが、燃え尽きたように引退して3年
後に彼女は、しっかり自分を持ったしなやかな女性という雰囲気で戻ってきました。25歳の年齢よりず
っと成熟している印象で、がむしゃらに勝ちにこだわるというより、自分がどこまでやれるか、楽しみな
がら見極めようとしているようです。こういう女性のプレイには引き込まれます。
高橋尚子にも似た印象があって、わたしは好きなのですが、ヒンギスより一回り年齢は上ですが、思い
つめた気持ちを笑顔で隠しているみたいな重苦しさを感じます。ヒンギスは自分だけのために自分の責任
でプレーしているのに、高橋は他人の期待も背負い込んでいるのかな。自由業と宮仕えのちがいのような
何か。あるいは欧米流の個人主義と日本的な湿った共同体主義のちがいでしょうか。
もう一人のごひいき、シャラポアの一回戦は、見ていて息苦しくなる感じでした。コートでは40度の
暑さだったようです。わたしは埼玉でテニスをしていた最後の数年は、30度を超える日は行かないこと
にしていました。甲子園の高校野球を見ていても思うのですが、日陰のない炎天下での激しい運動はずい
ぶん過酷です。大会運営というか興行というか、見る人の関心や出資を期待する主催者側の意向が、プレ
ヤーの事情より優先されるのでしょうね。
シャラポアはナンバーワン・シードの誇りにかけて、一回戦で途中リタイアはできなかったのかな。腹
筋の痙攣に見舞われながら、半ばもうろうとすることもあったようなのに、粘り抜きました。相手のパン
は、強打を拾いまくってシャラポアが体勢を崩してミスをするのを待つプレーヤーでした。解説者が繰り
返して言っていたように、球速を抑えてコースを狙ったほうが、体力も温存できて楽に勝てたと思いま
す。実際、三セット目に5ゲーム連取したあと5ゲーム落として、シャラポアの体力が尽きてボールがゆ
るくなってからは、パンのミスが増えて勝つことができました。こういう相手には、力でねじ伏せるので
はなく、ヒンギスのようにしなやかに対処したほうがいいと思いました。彼女の体力と技にしなやかさが
加われば、シャラポアは世界の頂点に君臨できるのではないでしょうか。
とにかく過酷な試合でした。わたしは途中で、ローマの剣闘士のことを考えてしまいました。奴隷の剣
闘士が、貴族や平民の観客が楽しむために、片方が死ぬまで戦わされたゲームのことです。