フィンランド・モデルは好きになれますか 31

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第一部
 前の家の人はミニトマト作ってるんだけど、「ふつうのは作ってないでしょ」と言って、昨日収穫したトマトを強引に押し付けちゃった。そしたらお返しに加茂ナスをもらった。油を塗ってレンジで蒸して、肉味噌つけて食べたら、おいしかったぁー。隣からは回覧板と一緒にみごとなトウキビ(こっちではトウモロコシでなくてトウキビって言うんだよ)が三本届いたから、削いでバターでソティーして昼飯代わり。最近のは昔とちがってとても甘いんだね。
 食べ物って言えば、イクラ。生筋子が安くなってきたんで、ほぐしてしょうゆ漬けを作り、イクラ丼にしてみた。こっちでも店で食べれば1500円、安くても1200円だけど、手製だと2・300円で味わえるよ。これから生はもっと安くなるだろうから、大量に作ってみようかな。今回はもち網を使ってほぐしたけど、テニスやバトミントンのラケットが具合よさそうだから、それ用のを買っておこう。
 今日の写真はせせらぎ公園の景色。

第二部
        フィンランド・モデルは好きになれますか 31
 
4 福祉と経済

(2)情報・サービス社会の教育(承前)

〔科学としての教育学〕
 過去二回の国際学力調査(PISA)、特に03年の第二回は、OECD教育研究革新センターの考え方にもとづく出題になっている。フィンランドの教育改革では、同センターが出す膨大なレポートを注意深く検討し、参照していたようだ。だからこそ、総合第1位になったのだろう。日本が成績のよかった従来の学力調査とのちがいを、Г諒埆玄圓任發△訝翕菁鄙畭臾祥清擬?蓮△海Ω譴辰討い襦従来の国際調査は詰め込まれた知識量を見るものだった。PISPはそれを変えて、生涯にわたって学習する能力を身につけているかどうかを見ようとする。「だから、暗記や暗唱が中心の教育に戻したり、授業時間を増やしたりする方法では、日本の教育が抱えている課題は解決できない。(中略)楽しんで学ぶことがフィンランドの教育の特徴」。
 日本で05年に出版された明石書店の『脳を育む学習と教育の科学』()で、OECD教育研究革新センターの考え方が紹介されている。監修は小泉英明、訳は小山麻紀。わずか155ページの冊子だが、興味深い話題がたくさんある。ここでは全部は論じきれないので、フィンランド教育改革の精神とかかわるところだけ、いくつか抜き出してみる。
 まず、いままでの「教育学は技術のひとつであって、実証的根拠に基づいた科学になっていない」として、今後の見通しが次のように書かれている。

  最近の研究知見によると、最終的に台頭してくる教育とは、洗練された明確な教育学的分析をもとに して、認知神経科学認知心理学の互いに重なり合った部分(inter section)に位置するものになると いわれ始めている。
 
 わたし好みに言い換えると、教育は、積み重ねられた経験をもとに生薬を処方していた漢方医学の段階から、人体の内部構造とその機能を知り施術と効果の因果関係を理解して治療する近代医学の段階に進もうとしている、ということだ。人体の構造と機能に当たるのが、関連するさまざまな科学がこれまで発見した脳神経系の構造と機能である。
 OECD教育研究革新センターは科学としての教育学を目指している。だがまだ出発したばかりであることを自覚し、教師や親が通俗化された「神経神話」に惑わされる危険を警告している。「神経神話」とは、たとえば、右脳と左脳の機能分離とか、シナプス発達臨界期説による早期教育とかである。それでも、「学習科学と脳に基づいた教育は始まったばかりだが、重要な進歩はすでになされている」、と宣言されている。

〔意欲と動機の重要性〕
 「重要な進歩」のひとつは、学習における情動の重要性を裏付ける科学的な知見が確立されたことである。その知見にもとづいて、まず基礎・基本のカリキュラムを修得させ、そのうえで「情報に基づいた学習者の要求への信頼(Trust the informed learner’s demand TILD)」の原則が考慮されるべきだ、と提案されている。基礎・基本という言葉を、日本の教師は一般に、読み・書き・計算の基礎技能と解釈する。だがここではまったく別で、「学習自体の学習」、自信と意欲の確立のことである。意欲が高く脅威が小さいとき、「利発な(機敏な、自信・確信・やる気に満ちた、幸せな)自発的学習者(mastery learner)へと成長するのである。」意欲が低かったり脅威が大きかったりすれば、「依存的学習者(dependence learner)となり、基準・動機づけ・自尊心を他者に依存することになる。」
 これまで学習能力(能力の限界、IQ、適性)や学習機会(有無、均等、提供)が重視されてきたが、この二つは重要ではあっても、いまでは解決策のわからない障害ではない。今後研究されなければならないのは、自信と意欲を確立するためのカリキュラムである、と指摘されている。何を学習するかの前に、どのように学習するかを考えなければならないというのだ。
 海馬と扁桃体を中心とする大脳辺縁系は、前頭前野と接続し、情動脳と呼ばれる。人は情動脳で情報の価値を評価する。情動脳に損傷を負っても、すでに確立されている知能は影響を受けない。だが学習には情動状態が影響する。注意を集中し、満足の遅延に耐える能力が、学業の成功と相関することはわかっている。学習者は特定のイメージを心のなかに形成することで、自分の血中ホルモン濃度を調整し、情動状態を変えられるという研究が紹介されている。別な研究によると、扁桃体を中心とする恐怖情動の回路は、他の情動回路と独立していて、恐怖に駆られた身体の行動と思考を遮断する機能があるという。教室での注意散漫がストレスや恐怖と関係があるのではないかと、示唆されている。フィンランドの教師が、「子どもの意見を聞き、ニーズに配慮しながらやっている」と言うのは、このような知見が教育改革に取り入れられ、現場に浸透しているからだろう。
 紹介されている別な報告では、乳児が生まれながらにもつ学習能力が注目されている。言語だけでなく、心理学、物理学、生物学も、子どもは学校で学ぶ前に自発的に修得する能力がある、というのだ。周りの人間の考え方・感じ方と自分のそれとの関係が心理学である。物体の動きやそれとの接触の仕方が物理学である。単純な生命体、動物や植物の機能が生物学である。幼児が体験的に修得したこういう知識を遮断することなく、学校での学習につなぐことができれば、「子どもは現実世界についての科学的概念を本当の意味で理解することができるのである。」フィンランドの教師の、「できるだけ子どもたちの生活と学習を関連させる」という言葉は、この報告と対応する。
 (この項続く)