トドワラ遠景 幼児の学習能力
トドワラとは尾岱沼に面した野付半島の先端でトド松が枯れて風化が進む一帯のことです。かつての浅海に半
ば沈む白い木の遺骸は見応えがありましたが、今では元トドワラと言ったほうがいいほど風化が進んで乾燥化し
ており、木道を歩く楽しみが小さくなりました。いろんな段階のシルエットがもやの中に浮かぶ遠景はあいかわら
ず趣があります。
幼児の学習能力
わたしはずいぶん前に唯一刊行された自著で、教え込む「教育」をやめて子どもが自分で学ぶのを援ける教育
に変えませんか、と問いかけました。その後CERI(OECD教育研究革新センター)がほぼ同じような方向で、脳科
学に即した教育を提唱し、フィンランドを初め多くの国で教師主導の教育から生徒中心の教育に切り替えが進み
ました(日本では旧態依然、今もってほとんど変わっていないようです)。
「日経サイエンス」2010年10月号でA..ゴプニックが、幼児の学習能力についての最近の研究結果を報告し
ています。それによると幼児は誰に教えられなくても、仮説を立て、仮説と事象の関係をベイズモデルと呼ばれ
る確率的モデルで統計分析しているのだそうです。
おもちゃを使って4歳児と大人をテストしたところ、新奇な事象に解決を見つける創造性では子どものほうが優
れていたと書かれています。大人は既成の知識に頼りすぎて発想の飛躍ができなかったのでしょう。ところが子
どもは教えられていると思うと、自分の統計分析を変えてしまい、創造性が低下する場合があるのだとか。
人間は「変化し、創造し、学び、探求するために、進化によってみごとに設計されている。このような能力こそが
人間の本質で、人生の最初の数年間に純粋な形で現れる」というのが、ゴプニックの結論です。彼の研究対象
は4歳までの幼児に限られていましたが、その後でも子どもが自ら学習する能力はこれまで考えられていたより
ずっと大きいと、わたしは考えています。
コンピュタに効率よく蓄えられる類の知識ではなく、人間の本質である創造力こそがだいじな時代になっていま
す。そして創造力は教えられず、教えようとすると損なわれます。教育関係者だけでなく、お受験や英才教育に
熱心な親にも、ぜひこのことをわかってもらいたいものです。