日曜の早朝に目覚め、番組予約をしようとテレビをつけたら、WOWOWで『ラリー・フリント』とい
う映画をやっていて、そのつもりはなかったのに、つい最後まで見てしまいました。ヌード雑誌『ハスラ
ー』を刊行し、性器を露出した写真を載せ続け、絶大な人気のある聖職者を「he fucked his mother」と
中傷する記事をでっち上げ、パフォーマンスのなかで星条旗を侮辱するなど、数々のスキャンダルを巻き
起こしながら、巨万の富を築いたフリントの半生を描いたものです。
「まじめ」なお偉方の言動を徹底的におちょくる。背後に官憲がいるように示唆されている犯人に銃撃
され、下半身不随になりながら、ますます反権力的で猥雑な行動をエスカレートさせる。日本にも変人奇
人はいるでしょうが、これほど破天荒な人物はまずいないでしょう。
それに、金の力があったとはいえ、訴えられた彼を弁護する法律家やジャーナリストがいて、収監され
ても救出され、裁判に勝ったりもする。こういうアメリカの懐の深さは魅力ですね。ポルノやフリントの
猥雑さが大嫌いなのに、ことが表現の自由に関わるとなれば、断固として擁護に回る。そしてその主張に
動かされる陪審員がいる。
個人の好き嫌いと公共的な法の原則をきちんと峻別する。それができなければ、大義とか公共の福祉と
か民主主義とか言っても、権力をもつ個人が自分の好みを他人に押しつける道具に使われるだけ。この点
の認識の深さが日本とは段違いなのでしょうね。
あの国には、進化論を正しいと思う人より、すべての生き物は神が一週間で作ったという創生説を信じ
る人のほうが多いとか、開戦当初は大統領への支持が圧倒的になるとか、わたしたちの常識からすると信
じがたい面があります。それでもやがて、プライヴェットな感情を公共性の原則で抑制する冷静な意見が
盛り返していくと、信じられそうです。その点は日本に住むわたしにはうらやましいな。