桜 ！② 大破局が見えない気質
気温が２０度を超える天気のいい日と雨や曇りで肌寒い日が、数日おきに交互に来ています。桜まつりと運動
会があちこちで催される週末がどちらになるか、関係者には気のもめるところです。
大破局が見えない気質
統合失調症という病名はありませんでした)。その一方で彼は文学や文系分野の知識も実に
版会 １９８２年初版)を読んで、あらためてその思考の深さに感嘆しました。
以前からふしぎに思っていたことがあります。こういうことです：気候温暖化、食料・水・化石
エネルギー資源の枯渇、森林と生物多様性の劣化などによって、いまや文明は崩壊の危機
に瀕している。原発への依存はその危機の解決にはならず、むしろ崩壊を早める可能性が大
きい。根拠となるデータを示してこれらの危険を説いている人は少なくないのに、経済や政治
の実務を担う指導者や一般の人々の多くは、小さな改革によってこれまでとあまり変わらな
在でさえ、原発廃止は非現実的だと主張する人々が後を絶たない。そしてそういう人々は、
現状維持あるいは近い過去の再建が可能だと信じさせるデータを示そうとはしない。いったい
なぜなのか、と。
中井さんの本を読んで、この疑問に対する答えが見つかったような気がしました。以下はそ
の説明です。わたしの解釈をわたしなりの言葉で表現しているので、｢｣の部分以外は彼の考
えの正確な紹介になっていないかもしれません。
中井さんは、分裂症に親和性の高い気質(彼にならって以後はS気質と書きます)と強迫症
に親和性の高い気質の両方とも、もともと人に備わっていると考えているようです。S気質は
ごくわずかな兆候にも敏感に感応し、予測される将来に果断に対応しようとします。重い発症
だと兆候察知が過剰になって妄想・幻視・幻聴などにまで進み、精神的なエネルギーが枯渇
して無気力状態に至りますが、長く続いた狩猟生活の時代は、発症まで至らないS気質が生
存に有利に働きました。わずかな兆候を敏感に察知して瞬時に予測し、迅速果断に行動を選
択すれば、狩の成功率が高くなりますから。ところが農耕社会になって、ヒトの強迫性に「出
番が回ってき」ます。「狩猟民は自然の一部であるが、農耕民は(中略)自然と対立してい
る。」(21頁) 測定・計量・きまった手順・同じことの繰り返し・貯蔵・整頓・清潔などに執拗にこ
だわらないと、自然の破壊力に対抗して農作物を収穫することはできません。
わたしは文明という言葉を農耕化以後の社会を指して使います。現代はまだ農耕社会の延
長です。わたしたちは親や教師から、S気質を抑制し、強迫性を強化するよう絶え間なく訓練
されて大人になります。それでもS気質を噴出させてしまう人は少数者の位置に追いやられ、
昔なら王やシャーマン、今なら科学者・芸術家・カリスマ的政治家や官僚として上昇しない限
り、居場所がありません。挫折して発症してしまった人には、復帰が難しい社会です。一方強
迫性の訓練に過剰反応した人は強迫神経症の患者になります。社会復帰はできても再発し
やすいようです。
強迫性の強い人(「執着性格者」)は、「得意の小破局の再建を「七転び八起き」と反復することはで
きるとしても、「大破局は目に見えない」という奇妙な盲点(35頁)」を持ち続けることになると、中井さん
は言います。彼らには、安全性を確保して原発を運転し続けることが、理の当然と見えているのでしょ
う。S気質者は「見えている」カタストロフィーについて語りたくなりますが、執着性格者にはいまあるも
のを持続し、かつてあったものを再建することがリアルで、「見えてない」破局について論じ合うことは
無意味です。どうやらわたしは彼らに見えている世界に想像が及ばなかったから、ふしぎな気がしてい
たようです。わたしのようなS気質者の見ているつもりの破局が妄想なのか、それとも執着性格者が
恐れがある」(同前)のか、どちらでしょう。答えが出るのはカタストロフィーが現実になった後だとすれ
ば・・・・・・・。情報化がさらに進めば、S気質者が再び多数派になると思いますが、間に合うかどうか。
