始まりの沿岸氷
岬の沖合いはるか彼方に流氷の白い帯が浮かんだ先週水曜日に、沿岸から氷結しはじめた氷が沖合いに伸
びるようすです。明日は3日後に岬の海がどう変貌していたかを見ていただきます。
政治の現在と未来についての感想 2
――― 公と私
「政治」をグーグル国語辞書で検索すると、「1 主権者が、領土・人民を治めること。
まつりごと。 2 ある社会の対立や利害を調整して社会全体を統合するととも
に、社会の意思決定を行い、これを実現する作用」とあります。1は過去の歴史から、2
は「民主主義国」の現状から導いた定義でしょう。わたしは「互いに見知らぬ多数(数千人以上)
を統合し、その規模にふさわしい事業を実施すること」のような表現なら、国家を形成した過去
現在すべての社会に当てはまると思います。「見知らぬ多数者の統合」が政治の核心で、そ
の理念が「公」または「公共」(以下「公」で代表させます)です。政(まつりごと)の対象であった
神は、抽象化された「公」です。狩猟採集中心のバンドや部族には、この説明が当てはまりま
せん。そこで人々を結び付けていたのは、人と人が実際に出会って生身を晒しあうことで生じる
親和感です。ですから、集団の規模は数十人からせいぜい2,3百人に制約されます。成員はほ
とんどが親族や姻族です。「公」の理念も政治もありません。集団内の人々にかかわる出来事
すべてが、個人や身内の「私ごと」です。
農業は何世代もかけて、開墾・土壌改良・水利施設建設、道具や種苗の改良、暦の知識や
栽培技術の改善を積み重ね、狩猟採集の何十倍も生産性が高くなりました。その結果、直接
耕作に従事しない多くの人員を養い、集団を拡大することができました。過去からの蓄積が増
大し、より多数の知恵と力が結合されて、さらに知識技術の改善、土木工事の大規模化、耕
地(領土)と財の拡大が可能になります。個人やバンド・部族にできなかったことが、過去と現在
の何千人、何万人、何十万人もの人々の協働で実現します。
あなたとわたしがいっしょに綱を引いて岩が動けば、二人の協働で生まれる力を実感できま
す。この実感は「私ごと」の世界でも人と人を結びつけます。しかし、会うこともない大勢の人と
どこか知らないところで協働して生まれる力や、すでに逝った先行世代の蓄積の上に実現する
力を、わたしたちは直感的には実感できません。国会議事堂、豊かに広がる耕地、巨大なピラ
ミッドなどを見て推測するだけです。「公」の理念を支える実体は、統合された人々の力です
が、それは手がかりをたどって考え、理性で理解するものです。政(まつりごと)の対象である
神の意志を伝える司祭、王や皇帝やその役人、立法・行政・司法を職務とする公務員。誰であ
っても統合を担う人は、「公」の名において私人に命令し、従わない者を罰する権力をもちま
す。ちなみに広辞苑は「政治」を、「①まつりごと」のつぎに、「②権力の行使、権力の獲得・維
持にかかわる現象。(以下略)」、と説明しています。バンドの長老や部族の首領は、「私ごと」
の世界の存在ですから、権威はあっても公権力はもちません。(明日に続く)