独りヅル ガン告知とパターナリズム

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 阿寒国際ツルセンターには給餌する広場の近くにビオトープがあります。ここには湿原に散ってからも

ときたま戻る鳥がいるようです。この日広場から離れて独り歩いている丹頂もいました。茶色が残るのは

幼鳥でしょう。


            〔ガン告知とパターナリズム


 NHKテレビ小説『だんだん』で先週のメイン・テーマは、すい臓がんにかかった主人公の祖母への病

名告知でした。医者は告知すべきだと思っていますが、患者の息子である主人公の父親は、知らせるつも

りがありません。「オカーチャンのことはオレが一番よく知っている。ガンだとわかればがっくりくるに

決まっている、」という意味のセリフがありました。

 24年前同じ病気で妻が入院したしたとき、わたしもこの問題に直面しました。そのときは妻が真実を

知りたいと主張し、わたしも隠すつもりはありませんでした。しかし主治医は、「患者は表面ではどう言

おうとも、心の奥では避けられない死を知りたくないと思っている」と、強固に反対しました。彼が妻の

執拗な要求に屈して、彼にとって初めての告知を決断したのは、入院後半年ほどしてからだったでしょう

か。

 ドラマの父親と主治医に共通なのは、本人より自分の方がよくわかっている、という考え方です。当時

は進行性ガンの患者をもつ日本の医者ほとんどの共通認識だったようです。さすがにいまは告知を拒む医

者はあまりいないと思います。しかし、世間は「本人よりよくわかっている」と主張する家族に共感する、

と判断したから、ドラマ製作者はあのような筋立てを採用したのでしょう。ドラマでは最終的に本人が知

ってしまうことになりそうですが、「自分の方が本人より」を一時的にせよ許容する製作者の姿勢に、わた

しは問題を感じました。

 アメリカではすでに「患者の同意のない治療は犯罪である」が確立し、日本でもインフォームド・チョイ

ス(患者に十分説明した上で本人に治療方針を選ばせる)という言葉が聞かれるようになりました。それで

もまだ世間には、パターナリズム(家父長制的な温情主義と権威主義の混合)の土壌が残っているのでしょ

うか。実際に、幼児でも意識障害者でもないのに、「家族のことはオレが決める」がある程度共感されるの

であれば、そういうことになります。

 パターナリズムが生き残る場所では、虐待、スパルタ体罰パワハラなど、弱者に対する不法行為が起

きやすくなります。憂さ晴らし、支配欲満足、価値観の押し付け、損得計算など強者の利己的な動機が、

「結局は本人のためになるのだ」という言い訳や自己欺瞞で覆い隠される余地があるからです。「指導者が

ポピュリズムに負けたら国の政治がめちゃめちゃになる、」などという主張にも同じ匂いを感じます。(こ

のテーマ続く)