アオサギ 見えないものを見る

イメージ 1

イメージ 2

イメージ 3

 女満別湖畔のアオサギです。

 〔見えないものを見る〕

 ヒトは視覚の動物と言われることがあります。しかし少なくとも色覚については、ヒトを含む哺乳類は

進化の頂点ではありません。わたしたちは網膜に、3原色(赤、青、緑)に対応する3種類の錐体視細胞を

もっています(旧世界霊長類以外の哺乳動物は2種類) 。鳥類など哺乳類以外の脊椎動物には、近紫外線

領域の電磁波にも対応する色覚細胞をもち、4原色で見ているものも多いそうです。彼らが見る世界はわ

たしたちのものよりずっと色鮮やかなことでしょう。恐竜の時代を夜の闇に隠れてやり過ごした哺乳類の

祖先は、二つの錐体視細胞を退化させ、その後ヒトなどは残ったものからもう一種類を分化させまた。

(参照: 「日経サイエンス」06年10月号 T.H.ゴールドスミス)

 ヒトは犬やコーモリよりは色覚が優れています。でも犬は嗅覚でも「見る」し、コーモリは超音波でも

見ます。彼らに「見え」ていて、わたしたちには見えない世界があります。電磁波の全領域のなかで可視

光域はとても狭いので、ヒトは他の電磁波が運ぶ情報には盲目です。さらに距離でも大きさでも判別でき

る範囲は限られています。ですから、日常生活ではあまり意識しませんが、実際にはわたしたちは世界の

ごく小さな一部だけしか見ていません。

 ヒトで鳥類の四番目の色覚や犬の嗅覚やコーモリの超音波に代わるのは、「見えないものを見る」能力

ではないでしょうか。麦一粒に、発芽して葉を茂らせ豊かに稔る姿を見るようになって、栽培が始まりま

した。砂鉄や鉄鉱石に、やがて見えるはずの剣や銃・鍬や鍋などを重ねて、工業がはじまりました。いま

では、大口径望遠鏡・電波望遠鏡ハッブル望遠鏡が捕らえた、遠い銀河の姿も見ることができます。電

子顕微鏡で、分子や原子のナノ・レベルの世界を見ることもできます。粒子加速器で、原子以前の宇宙の

はじまりの一部さえ、再現されようとしています。

 見えてはいないが見えるはずのものを見る能力が、鳥の色覚、犬の嗅覚、コーモリのレーダーよりずっ

と適用範囲が広かったので、ヒトはここまで来ました。それでもやはり、わたしたちが見ることができる

のは世界の一部です。137億光年以遠の宇宙も、わたしたちを取り囲む微細な余剰次元も、けして見る

ことができません。そしてサイバー空間に蓄積された情報も、ヒトが作り上げたものなのに、その全体を

見ることはだれ一人できません。たぶん人の心も。わたしたちは卑小ですが、自分の知の卑小さを知るこ

とはできます。しかし、鳥、犬、コーモリには、見えている世界がすべてでしょう。