温暖化 2

 第一部
 今日の写真は屈斜路湖です。湖面全体が凍っています。こちらの人の話では裏から見た湖の景色もすばらしいということなので、雪が溶けて湖岸に緑が増えたら、行ってみようと思っています。
  
 第二部
 
  温暖化 2
〔温暖化は防げない〕
「もし」ヒトが出す二酸化炭素量が今年中に産業革命前の水準になったとしても、すでに0.6度上昇した気温がすぐに元に戻るわけではない。戻るには何十年もかかる。だから、ロシアの国家予算を超える額の被害を出したカトリーナ級の熱低や、スペインの穀物生産の40%を壊滅させた旱魃や、ヨーロッパに3万人の死者をもたらした熱波のような自然災害は、今後もおきる。しかもこの「もし」は実現できない仮定だ。
「実現できる最善の結果」は、100年後の二酸化炭素濃度を540ppmにとどめ、気温上昇を1.4度以内に抑えること。最善でも気温はさらに上昇するのだから、今までの「観測史上最大」といわれた気象災害を超える災害がおき、その回数は増え、被害の及ぶ地域が広がる。北朝鮮軍が日本に侵攻するような事態は、すくなくとも今はまだ、おきないように努力することができる。ところが、ここ百年の気温上昇を今すぐ解消し、今後の上昇をゼロにすることは不可能だ。大規模気象災害は、軍事的緊急事態より、ずっと確率の高い予測である。とはいえ、「実現できる最善の結果」であれば、大規模異常気象災害は防げなくても、温暖化の暴走はなくなる。
以上の考えが間違っていないのなら、わたしたちの行動の目標は次の二つになる。ひとつはこれまでの経験値を超える気象災害に備えること。もうひとつは温暖化の暴走を阻止できるように、温室効果ガス排出を削減すること。

 〔気象災害に備える〕
 少子高齢化や年金制度の危機が叫ばれ、しばしば10年後、50年後の経済見通しが語られている。だがわたしはその中に、増加し拡大するはずの気象災害による経済損失が算入さている例は見たことがない。人口密集地帯をカトリーナ級の台風が襲い、西日本を中心に旱魃で農作物が40%減収になるようなことが何回かあったら、長期経済見通しはすっかり変わってしまう。
 カトリーナニューオーリンズにもたらした被害は、あらかじめ警告されていた。連邦緊急事態管理庁(FEMA)は、2001年に、ハリケーンによるニューオーリンズの洪水を、合衆国で起こりうる三つの大災害のひとつと指摘していた(他にはカリフォルニア大地震とマンハッタンのテロ攻撃)。その後も陸軍工兵隊やルイジアナ大学の研究者などが、何度も警告し、ルイジアナ州も洪水対策を連邦政府に求めている。だが対イラク戦争にまい進していたブッシュ政権は、洪水対策費減額に抗議した陸軍工兵隊長を辞任に追い込み、FEMAをひたすらアルカイダ対策に専念するだけの組織に格下げした。(この項のここまでの部分は、ネット上で、Mike Davis著 瀬尾じゅん・斎藤かぐみ訳『カトリーナ被災地に群がる禿鷹ども』を参照させていただきました。多謝。)イラクに派遣されていたルイジアナ州兵は、ニューオーリンズの緊急救助に駆けつけられなかった。結果として、この地の住民は「聖なる戦争」に供された犠牲の羊になった。イラクはあのまま放置されていたとしても、アメリカ国民に災害はもたらさなかっただろうに。
小泉内閣は2003年に有事三法を成立させた。主に北朝鮮の軍事侵攻を想定しているようだ。そして05年、アメリカのミサイル防衛システム構築への参加と10億ドルを超える巨額の費用負担を決定した。日本国民を守りたいのなら、狙うべき的を間違えている。10億ドル超を防災対策強化に充て、これまで以上の大きさの気象災害を想定した自衛隊の装備と行動計画を整え、公的各機関・民間組織・住民間の連携を準備し、旱魃に備えて点滴灌漑の研究や品種の改良などを急ぐ。そのほうがはるかに日本国民の生命と財産の防衛に役立つ。防災計画は、これまた確率の高い南海・東海・関東の大震災にも有効だ。
これまでの3・400年は比較的気候が安定していたから、過去の大災害を基準に防災計画を立てればよかった。温暖化は、今よりは10年後、10年後よりは50年後と、時間がたつにつれて影響が大きくなる。未来を予測しなければならない。シミュレーションは、何年後どこでどの規模の異常気象が発生するか、ピン・ポイントの予報はできない。それでも、精度を上げようと日夜努力している世界中の気象学者たちのおかげで、一定範囲内の変化の方向は、かなり高い確率で推測できるようになったといわれている。IPCC気候変動に関する政府間パネル)にかかわる数千人の専門家たちの考えは、細部に見解の差異を残しつつも、気象被害拡大の傾向については同意する方向に収斂してきた。手遅れになる前に、彼らの警告を生かす行動が必要だ。
多くの政治家や行政責任者や経済指導者たちは、不確定性を含む未来像には腰がひけて、なじみのある過去にこだわりたがる。わたしたちが彼らの尻をたたかなければ。北朝鮮のミサイルより大規模気象災害を重視したつけは、みんなで払うから、と。
次回は〔温暖化の暴走を防ぐための行動〕を考えます。