ていました。
カストロ後のキューバや反米左翼政権の増えた中南米が、アメリカを、武力冒険主義と世界から目をそ
らす孤立主義の、どちらに向かわせるのか。ロシアや中国が、なり上がる少数者と取り残される貧しい多
数者の対立を強権で治めるのか、失敗して解体に向かうのか。中東やアフリカでは、紛争と貧困による死
者が増え、格差が拡大し、イスラム原理主義勢力の後退する兆しは見えません。北欧をはじめ、西欧の経
済的には豊かな国で、極右が勢力を伸ばしています。ファシズムとスターリニズムが火をつけた動乱が、
世界中に広がりはじめた時代のような、きな臭いにおいを感じるのは、衰えの時期に入ったわたしの、単
なる杞憂なのでしょうか。
ところで、どうして日本に極右の台頭がないのか疑問に思っていましたが、最近こう思うようになりま
した。すでにこの勢力が日本を制圧しているからだ、と。外国人差別政策は前から実行されています。日
本人と違う外見をしていればしょっちゅう警官に呼び止められ、証明の提示を求められます。貧困や弾圧
を逃れて来た人たちは追い返され、搾取される外国人に公的な救済はほとんどありません。北朝鮮や中国
をダシに民族主義をあおり、軍事行動拡大の準備を急ぎ、若者の無償強制労働制度化を求める言説は、政
界でも言論界でもいまや主流です。
西欧と日本の極右でちがうのは、貧しい国民への政策です。むこうでは、排外主義と、社会保障の擁護
ないし拡大が、セットの主張です。自国の単純労働者層が、周辺貧困国の労働者に地位を脅かされていま
す。だから、彼らの支持を当て込んで、福祉強化を主張したり、自ら救済活動をしたりしています。こち
らでは、「滅私奉公」につながる精神主義と、社会保障の縮小です。夕張では、地方政府の失政への罰と
して、政府が住民の生活破壊の音頭を取っています。日本には、いまや国民の多数派になろうとしてい
る、相対的貧困層を代表する勢力がないのです。この層に多いのが若者なのに、彼らのなかで、貧しい国
民の切捨てを図る政府の尻馬に乗る、愛国主義がブームになるという、なんとも不思議な国です。これ
も、政権を支配する右翼勢力が、60年代後半から営々と築き上げてきた、若者から自分の頭で考える習
慣を奪う教育制度の、輝かしい成果なのでしょうか。