フィンランド・モデルは好きになれますか 13

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第一部
 網走湖女満別湖畔の写真です。もうすぐここで夏祭りが開催されます。船の競争や花火、そのほかいろんな催しがあるのだそうです。

第二部
           フィンランド・モデルは好きになれますか 13
2 フィンランド人の一生
(3) 大人への準備
後期中等教育から高等教育へ〕
 フィンランドは英語教育の水準の高いことで世界に知られていて()、高校を卒業すれば英語ができてあたりまえで、最終的には4ヶ国語以上身につける人が多い、という()。高校は入学すれば3年後に自動的に卒業できるシステムではない。4年以内に自分が選ぶ6教科の試験に合格することが条件である()。この試験はそれほど難しくないようで、ほとんどの生徒は3年で卒業し()、2年半で終わる生徒もいる。高校では2週間の職業体験が必修で、教師のコメントつきの労働証明書が発行される。人によっては在学中に、学業試験2回と大学入学資格検定試験1回の3回しか試験を受けないこともある()。
 学業試験とちがって、春・秋の2回行われる大学入学資格検定試験は難関だ。大学とAMKの入試だけでなく、就職にもこの成績が使われることが多く、進学しない人も受験する。いまは母語が必修で選択が3科目の4科目である。志望先の指定などで、更に他の教科も受けることがある。一回の検定で6教科まで受験でき、外国語のヒアリングが1時間のほかは、1教科6時間で、2週間の試験期間に1日おきに実施される()。評価は最優秀(L)、優秀、優、優良、良、可、不可の7段階で、大学によっては、7教科のLを要求する()。検定結果の証明書を生涯保管し、誇りにする人も多いという。
 検定以外の、ある大学で教職志望者に課される独自試験が、Г望匆陲気譴討い(筆者―西島徹)。これを読むと、高校は何をめざして教育しているか、想像できる。
 書類選考(検定試験結果)で1,100人を400人に絞る。その後の一次筆記試験は、事前に教授法についての専門書を1冊読ませ、設定された実際的な課題を、本から得た知識でどのように問題解決するか、4時間で答えさせる。二次の面接では、教師に向いた性格か、学ぶことに関心があるか、意欲的か、などを見る。教師になる理由をきかれ、「子どもが好き」と答えたら、まったく評価されない。最後の三次試験は「グループ・シチュエーション」で、5人ずつに分けた受験生の一人ひとりに別々の課題を与える。たとえば「コンピータばかりに熱中して運動が苦手な生徒を、どのように運動を得意にさせるか」、という課題である。一時間で解決策を考え、他の4人の前で発表し、1課題20分ずつで、全員で解決策を決める。その討論を3人の教官が見て、自分の意見を的確に表現できているか、他人とうまく協力して問題解決に当たれるか、という視点で審判する。全員の試験が終わるのに、1ヶ月くらいかかる。
 日本では標準的には、知識の量、出題者が想定する正解を予測する能力、手順が決められている技能、が重視される。産業社会に適した能力であり、強制的な学習になじむ。記憶した知識と手馴れた技能で、短い時間にいくつ出題者の意図どおり正解できるかで、大学の合否が決まる。中学・高校はそれにあわせて教育する。
 フィンランドでは、難しい本や複雑なデータを読みこなし、自分なりの実際的な解決策を発見し、説得力のある表現にまとめ上げ、他人と協力して作業する能力を重視する。情報社会に適した能力であり、じっくり時間をかけ、本人の動機と自己肯定感を引き出し、自主的で積極的な学習活動を促すことで、うまく修得される能力である。OECDの教育部門が推奨し、21世紀からのその国際学力比較調査で評価されているのがこの能力だ。だからフィンランドは学力世界一と評価され、経済競争力でも世界一になった。知識と技能中心の日本の教育は、20世紀の産業社会的学力ではトップだったが、新世紀の情報社会的学力調査ではフィンランドの後塵を拝するしかない。
        (この項続く)