フィンランド・モデルは好きになれますか 11

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第一部
 今日の写真は6月末のある日、早朝の美幌川を撮ったものです。

第二部
フィンランド・モデルは好きになれますか 11
2 フィンランド人の一生
(2) 学童期(承前)
 7~14歳児の総標準授業時間はOECD加盟国中でもっとも短い。日本と比べると、
      日本  フィンランド  
7~8歳   709 530 「図表で見る教育 OECDインディケーター
9~11歳   761  673        2004年版」 この数字は02年現在
12~14歳 875 815                  ()
学校の夏休みは2ヵ月半ある。それでも国際学力調査の結果ではこの国の学力は世界一である。 
 教室の光景は日本とだいぶちがうようだ。先生の説明の最中に生徒が席を立って、ほかの生徒のところに行ってわからないところを説明してやるようなことがあっても、先生はとがめない。わからないところがあったら、まずは生徒同士が教えることになっているという()。ある教師は、「できるだけ子どもたちの生活と学習を関連させる。国語なら読み書きの正確さより、読んだ文章について考え、感想や意見をどう表現するかに重点を置く」と語っている()。最近は「プロジェクト学習」が広がっている。教師から与えられた課題に、ネットや本、雑誌、新聞などを使って、個人やグループで取り組むのだ。
 庄井良信は資料Г里覆で、この国の高学力の要因を四つあげている。公平と平等の優先、学習者第一主義、学習の競争ではなく共同の重視、「比べ癖」がつかない学びのシステム、である。二番目の学習者第一主義は日本の標準的教室風景とは相容れない。日本のたいていの授業では、教師が、黒板を背景に教科書の内容を説明し、要点を板書する。生徒はそれをノートに書き写し、覚え、答案用紙に書く。教科書や教師の仕事は「正しいこと」(絶対的な事実、真実)を教えることで、生徒の役割は教えられたように記憶すること、と考えられている。だから、生徒が覚えやすいように印象的に説明し、簡潔にまとめて板書するのがいい教師とされる。フィンランドの学習者第一主義は、「知識を構成する主体はだれよりも子ども自身である」とする。真理は、教師から手渡されるパッケージではなく、学習者の作業によって接近すべき対象である。子どもは、学びあう他者との対話を通じて、「正解への強迫観念から自由に」になり、「学び合いという終わりのない航海」に乗り出す。
 フィンランドでも1990年代初頭までは、いまの日本のように教育は中央集権的だった。ソ連圏の崩壊に伴う経済危機(1.(2)参照)のとき、ITを中心とする知的財産による経済再建を政策決定し、それに伴い教育分野でも、教科書検定廃止、地方自治体、学校、教師への権限委譲が行われた。そのなかで「就学前からの企業家精神教育」(パーサモデル)のプロジェクトが立ち上げられた。それは基本的には、「教える教育から学ぶ教育へ」、「内容よりも方法を重視」、「すべての教科にわたって企業家精神教育的考え方を導入する」というものだ。「企業家精神」には、「自分が主人公であるという自信」を一つの主要な要素とする、新ビジネス・スタートに必要な精神能力が含まれている。
 パーサモデルによる教育では、自分で考え判断する、学ぶ動機、実社会とのかかわり、の三点が主眼である。まず、自分で考えて判断しその結果を受け止めるように促される。結果より目的やプロセス重視である。そのために失敗は非難されずむしろ推奨される。失敗を恐れずにチャレンジし、失敗から学ぶ態度を養え、ということである。次に、生徒が学習計画作成に参加し、学習結果に対する評価を本人にフィードバックし、他者からの評価を理解することで、学習の動機を維持することが期待されている。社会とのかかわりでは、就学前には、子どもが大人に語り聞かせを行い大人が書きとめて読み上げ確認する、子どもによるパーティーの企画・実施などがある。小学校段階では、リサイクル活動、蚤の市、ダンスパーティー、コンサートなどで、企画、協議、広告、金銭管理、などの実務経験を積む。中学段階では、サーカスなどのイベント、化学の授業にもとづく製品の製造・販売、公園や売店の管理などで、収益をあげたりする。
 このようにフィンランドの学童は、「おとなしいいい子」ではなく、積極的で主体的な学習者であることを期待されている。
   (この項終わり)